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Vol.16 建築家 武井貴志

美しく整った大谷石の壁面の一部に緑のツタがびっしりとからまっていた。重厚なムク材を鉄で止めたドアを開けると、建築家・武井貴志氏が顔をのぞかせた。
 中に招かれて見渡すと、ギター数本と譜面台、電子ピアノなどがあり、ミニコンサートができるような設計事務所であった。四方から明るい光が差し込み、背景となるような本棚には建築のぶ厚い本が並ぶ。ところどころ壁にピン打ちしてある外国の風景画や写真が目に留まった。
 「海外にはもちろん建築物や町並みを見に行くのが目的です。あとは美味しいものを食べることかな」と笑う武井氏。1級建築士として早30年、独創的な提案の建築設計を手がけいくつかの賞に輝く。仕事としての建築設計の他、「街づくり」をはじめ、絵画(水彩)や音楽(ジャズ)まで幅広く豊かな日常を垣間見ることができた。  

武井氏の設計事務所

武井氏の設計事務所


■『気持ちいい場所』をつくるために

「高校で建築を始めた時に、絵が描けないとだめだと兄に言われて美術部に入ったのが描くきっかけです。最初は油絵だったから時間がかかった。しかし、水彩は、30分くらいで描けますから、旅先でのスケッチがおもしろい。事務所を独立してからは年に一回は海外に出かけるようにしています。旅先の風景を絵に残すのと写真だけに残すのは違います。絵は長い時間見ていられる。風景は見ているようで見ていないし忘れちゃう。30分なり1時間なり、スケッチするためにそこにいると、気が付かなかったものが見える。いろんなものを見始める。そうすると忘れないですね」
 大学は工学部建築学科だったので、工学系の入試にデッサンはなかった。しかし、卒業後は建設会社に就職する人たちが多い中で、武井氏は「デザインにいきたかった」という。
 「建築の仕事はものをつくってそれが風景になる。『ここにいて気持ちいいな』っていう場所をつくりたいわけです。気候とか季節とか、細かい理由で『気持ちいい場所』ができる。建築の仕事はそれをつくる立場、再現する立場です。なんでそこを気持ちいいと思うのか考えてみないと分からないから、考えて分析しないといけない。目に映っていたけど覚えてない。だから、絵を描くのは大切だし、音楽もみんな一緒です」

インタビュー中の武井氏

インタビュー中の武井氏


■街をつくる

音楽は建築より前から好きだったという。中学生時代からギターを始めていた。社会に出てから仕事に没頭していて疎遠になっていた。彼が在住する宇都宮市は「ジャズのまち」である。ジャズ界の巨匠・渡辺貞夫(サックスプレーヤー/ナベサダの愛称)の出身地であり、「ナベサダ」は高校の先輩であった。ジャズバーの上に事務所を構えていた事があり、彼の感性を刺激した。
 「ジャズのおもしろいところは誰でも演奏に入れるところです。メロディの間のアドリブは、誰が入ってきてもいいんです。初めて会った人とひとつの音楽ができる。リズムとコードが合えば音を組み立てるようにセッションできる。理系のほうがジャズは入りやすく好きなんじゃないかと思いますね」
 宇都宮市大谷地域で産出される大谷石の蔵の活用による街づくりがジャズと関連してきた。JAZZ Big Band「市民ジャズオーケストラ」の代表として、宇都宮のまちなかでのコンサートによく出演する。
 「大谷石の蔵は宇都宮独特のものですが、なんと、宇都宮市にはまだ知られていない蔵もあるんです。ある日、街中で見上げるとビルのガラスに蔵の頭が写っていた。古くから街中にある造り酒屋の後ろに蔵が隠れていたんですね。驚きました。見に行くとちょっと鉄扉が開いてる。取材に行って中を見せてもらいました。協力していただき、そこでのコンサートを企画しています」
 宇都宮市のかつての繁華街を蔵と蔵をつなぐことで再生させたいと武井氏は考えている。

「市民ジャズオーケストラ」-中央が武井氏(ギター)

「市民ジャズオーケストラ」-中央が武井氏(ギター)

「ブラウンブレス」クリスマスコンサート-宇都宮大学峰が丘講堂にて

「ブラウンブレス」クリスマスコンサート-宇都宮大学峰が丘講堂にて


■「大谷石が地震に弱い」のではない

大谷石はフランク・ロイド・ライト(1867-1959年)によって設計された帝国ホテル新館(1923年)に用いられて脚光を浴びた。設計から11年の歳月を経てライトの本館は完成、9月1日に落成記念披露宴が開かれることになったが、その準備の真っ只中関東大震災が東京を襲った。周辺の多くの建物が倒壊し火災に見舞われる中で、さまざまな要因があったと思われるが、ほとんど無傷であった。
 「当持は大谷石は耐震性があるっていわれました。今回の震災で大谷石の耐震性をよく問われますが、大谷石がいいか悪いかではなくて、使い方なんです。大谷石はやわらかく加工しやすいので、建築の構造材として使われました。ヨーロッパにあるような石の建物ですよ。宇都宮は石積み建築が数多く残っている日本では珍しい街なんです。今回の地震でも崩れた蔵と崩れなかった蔵があったんですが、石とモルタルの接着の仕方が違ったようです。それは塀にもいえることです。昔の職人は石を充分に濡らしてから積み上げた。昔の職人がやっていたあるルールが忘れ去られてしまったということだと思っています。そのような技術が残っていれば、地震に弱いとはいわれなかったかもしれません」
 ちなみに大谷石で建築を創る可能性を示そうと、武井氏の事務所の外壁は大谷石積みである。鉄骨で耐震補強され、震度6強にもビクともしなかった。石を積むことで、蔦を這わせることもでき、表情も豊かになる。
 「大谷石は積んで厚みもあるし、建築の表情としておもしろい。柔らかい石だから削れていくのがいい。中まで詰まった大谷石積みだから、多少よごれても削れても、なじんで味が増していきますね」

渡辺貞夫氏を迎えて-大谷石蔵「悠日」にてジャズコンサート

渡辺貞夫氏を迎えて-大谷石蔵「悠日」にてジャズコンサート

武井氏設計事務所「TAKES」外観

武井氏設計事務所「TAKES」外観


■一緒に年をとっていくもの

「旅の風景などは写真を撮ってホテルで描きます。昨年はスペインのコルドバに行きました。これは北欧のヘルシンキで撮りました」と、旅の写真やスケッチをまとめたブックレットを見せてくれた。美術館のチケットやバスの切符、レストランのカードなどの間に、水彩画が描かれていた。旅の醍醐味を凝縮したようなブックレットが旅の情緒を際立たせて惹きつけられる。
 「ヘルシンキは緯度が高く、太陽高度が低いから影の長い風景がいつもあってきれいですよ。だから写真もきれいに撮れる」。その写真から味わい深い水彩画の作品が生まれていた。
 世界を見て触れてきた建築家・武井氏のことばが溢れる。
 「今は建築のデザインも多様になってきました。形だけをいうのではなく、成り立ちとか社会的な役割などによって『人がどう動いているのか』、などのほうに価値の重点が動いています。ガウディのように作りこむタイプの建築は今はあまりはやりません。特に日本では建築は消えていたほうがいいという流れもあります。でもそのために起きる事象、人の動きなどが、その建築によって生まれてきたということのほうが『大切なんだよ』という考え方です」
 「馬頭(栃木県那珂川町)の広重美術館などは最初は『なんだろう?』というくらい簡素に見えるじゃないですか。それでもあれがあるためにあの場所が生きて今利用されている。すでにあった風景へのなじませ方が素晴らしいのです。『建築を消す』方向への流れは、日本が自信をなくしたひとつの現われかもしれませんが、それらを受け入れる日本人の文化レベルの高さを感じますね」
 「材料も工業的なものがうける時代と、手作り的なものがうける時代と、自然なものがうける時代とがありますね。今は世の中の感心がエコにあるからナチュラルなものがうける時代になってきている。僕の好みも硬いものよりは柔らかく、一緒に年を取っていけるもの。一緒に汚れてっちゃうもののほうがいいのかなって思っています。新築の家でも新建材ばかりのほうが不自然だと思っています。絵の額縁などを見ると傷つけたり古く見せたりするのは昔から普通にやっていたんですよ。安くても新建材とは違ったものができると思っています」
 好奇心旺盛な武井氏は、人間の生きる街づくりための追及の手をゆるめることはない。武井氏の建築と街づくりの話は尽きることがなく、建築家の本質と存在意義を心地よく伺うことができた。

スケッチ:スペインコルドバ

スケッチ:スペインコルドバ

建築写真:メスキータ/コルドバ

建築写真:メスキータ/コルドバ

ヘルシンキに着いて

ヘルシンキに着いて

建築写真:ヘルシンキ

建築写真:ヘルシンキ


  • 写真:スペイン-ミハス

    写真:スペイン-ミハス

  • スケッチ:ミハス

    スケッチ:ミハス

  • 写真:スペインコンスエグラ-ラマンチャ

    写真:スペインコンスエグラ-ラマンチャ

  • スケッチ:スペインラマンチャ

    スケッチ:スペインラマンチャ

*武井貴志(1級建築士)プロフィール

1956年
栃木県宇都宮市生まれ
1975年
宇都宮工業高等学校建築科卒業
1979年
日本大学工学部建築学科卒業
株式会社更田建築事務所入社
1982年
1級建築士取得
1990年
株式会社更田建築事務所退社
テイクス設計事務所開設
1991年
株式会社テイクス設計事務所設立

社団法人栃木県建築士会理事、同宇都宮支部副支部長、JIA社団法人日本建築家協会会員、同栃木地域会副代表、うつのみやジャズのまち企画委員、うつのみや市民ジャズオーケストラ代表、日本工業大学非常勤講師

受賞暦

1998年
宇都宮町並み景観賞受賞
優多佳ガーデンコート外構デザイン
2002年
関東甲信越建築士会ブロック会・創立40周年記念事業
建築作品コンクール入賞 瀬田邸
2004年
第1回真岡市建築賞受賞 久保田邸
2006年
関東甲信越ブロック会優良建築賞

*株式会社テイクス設計事務所

〒321-0934 宇都宮市簗瀬1834-6
TEL:028-638-3730 / FAX:028-638-3735
HP:http://www.takes-archi.com/~hp/


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