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ビオス

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Vol.33 トータルファッションクリエイター
    山下 武尊(Takeru Yamashita)

宇都宮市の美容フェスティバルで、個性的なデザインを披露した若いデザイナーに出会った。「トータルファッションクリエイター山下武尊」である。彼は自分の手でモノを作るのが好きだった少年時代から、やがて大学で彫金を学び、イギリス留学を経てデザイナーの道を歩み始めた。その道のりは若さゆえの葛藤の道でもあった。
 「子どもの頃は特に美大で学びたいという考えはありませんでした。中高生の頃、進路に悩む時期がありましたが、それが『自分は一体何が好きなんだろう?』と考えるきっかけになったのです。その時に、モノを作ることが好きだと気付いたのです」

■モノを作ることへの興味から本物を極めるためへ

思春期に思い悩む山下さんの心の動きに気づいた母親が、油粘土を買ってきてくれたという。「粘土を手にすると何か作ってみたくなった。粘土は自由度が高いじゃないですか。好きなままに、手が動くままにモノを作れるんですね。それがきっかけで自分の手を使って何か作るということはこんなにも楽しいことだったのだと……。ジュエリーのデザインに興味をもって、進路は多摩美術大学工芸科に進み、金属を専攻して彫金を学びました」
 大学2年生になると、母親の知人がスイスのバーゼルで時計とジュエリーの大きな宝飾店に案内してくれるという話が舞い込んだ。「本場で本物を見ることができる絶好のチャンス」と、スイスの古都バーゼルに飛んだ。
 「英語もフランス語も話せなかったのでついて行くだけでしたが、ひたすら本物を見て回りました。その時改めて、これからどうしていこうかなと自問自答する時でもあったのです」
 スイス旅行は立ち止まって考える時でもあった。その当時美しいジュエリーに魅せられてイタリアのジュエリー工房に留学して腕を磨こうと考え、イタリアの伝統ある工房の歴史などを追って現在の工房の仕組みなどを丹念に調べた。
 「歴史的にも古い宝飾の世界を調べれば調べるほど、家業的な仕組みが強く、先祖代々先代の方が次の方に繋いでいくという、ある意味では閉鎖的な世界で伝統ある宝飾の世界を守ってきたようです」
 スイス旅行はジュエリーデザイナーを考えてのイタリア留学を思い直すきっかけともなった。デザイナーとしての先輩でもある母親に相談すると「もうちょっといろいろ視野広げてみたら」と助言をしてくれたという。
 「ジュエリーはファッションの世界でも、例えば靴、女性服、男性服、帽子などの中にジュエリーがあるのですが、視野を広げてファッションのデザイン全体をトータルコーディネートとして勉強したら、ジュエリーであろうが帽子であろうが靴であろうが何であろうが、いろんなことができるんじゃないかなという考えに行き着いたのです」
 留学先を女性服のデザインを学ぶイギリスへと方向転換した。イギリスを選んだ理由として「英語が世界的に使われている言語」であることと、やはり母親の知人がすすめてくれたことだったがロンドン芸術大学の面接が二週間後ぐらいにあるというタイミングもあったと話す。
 「それなら挑戦してみようと思い、面接を受けたところ、面接官の方にとても気に入っていただけました。多摩美の卒業制作が金属と紐を組み合わせた一つのオブジェのようなドレスでしたので、写真撮影をしてお見せしましたら、気に入っていただけたのです。あとは授業を受けられるレベルの語学力があれば入学できるとおっしゃっていただきました」
 ロンドン市内にアパートを借り、現地イギリス語学学校に通い語学をレベルアップ後、ロンドン芸大に入学、留学生活をスタートさせた。

■その瞬間そのものに魅力があることが大切

イギリスの大学で学びはじめると、日本とイギリスの美術大学のシステムも雰囲気も全く異なっていることに躊躇した。
 「日本の多摩美術大学は雰囲気も自由で学校も広く、みんなが気ままに製作したりできたのですが、イギリスでは大学内も狭く閉鎖的な雰囲気を感じました。日本では伸び伸びした環境で制作をしていたので、ロンドンではどちらかといえばちょっと硬く窮屈な感じを受けました。多摩美では元々がアートベースだったので、みんな個性が強く、それぞれがやることに対して『君がやるのは面白いね』などと、お互いに言い合えるようなそれぞれの世界がありましたが、ロンドンにきてアートから絞られてファッションの世界に入って思ったことは、それほど自由にファッションを生み出せるわけではないということでした。洋服のデザインは、アートよりもビジネスとして『売れるか売れないか』が優先されることでもあるのです」
 山下さんが自分の世界を表現していると、周囲の表現とかけ離れていて浮いた存在になっていたようだという。
 縫うことやパターンを作るなどの技術をメインに勉強したかった山下さんは、アートバックグラウンドがあれば後は技術を身につけるのみと思って大学に通っていたが、「ファッションの世界は別な意味で大変な世界でもあり、そういう意味では苦しかったですね」と話す。
 今まではアーティストとしての感性でやってきた山下さんは、今度はファッション界の中でやっていかなければならないことになった。
 「そしたら、自分の中でつまらなくなっちゃったんですね。売れる売れない、着られる着られない以前に、面白いとかきれいとか、モノとしての魅力の方が僕の中では大事なことなんです。例えば舞台などで一回のみ使われるモノや置いておくモノでも構わないんですが、その瞬間そのものに魅力があることが大切だと思っています」

■誰かの心が少しでも動いてくれたら嬉しい

山下さんは2013年にロンドン留学を終えて帰国。自らのポリシーを持ってファッションデザイナーの道へと歩みはじめる。
 「俗にいうファストファッションのように、買ったらワンシーズン着て捨てちゃうような洋服、そういったものは感動を生まないし、捨てられちゃうようなものは僕は作る意味があるのかなって思ってしまう。もちろん工場としてビジネスとしてはいいと思うのですが、そこを目指してファッションデザインをやる必要性があるのか、今でもすごく疑問です。ちょっと変わっただけで新しいファッションだって言って……。だったら機械に任せてデザインも何でもいいんじゃないの?みたいに思ってしまいます」と、自らの溢れる思いを作品に向ける。
 並行して母親の仕事でもある香水デザイナーとして、多摩美術大学とロンドン芸術大学で培った感性を注ぎ込んでいる。
 「香水のデザインはすごく不思議な世界、シンプルですが面白くて僕は大好きです。香水が何種類もあるのですが何の香りかは重要ではないのです。絵の具でいう赤青緑みたいに絵の具一色が香り一色みたいに、その香りのイメージの世界です。例えばその香りを嗅いだ時に自分が何をイメージするのか、温度とか、天気とか、いろいろですが、想像力の世界が広がって行きます。例えば青い絵の具を見た時にどのようなイメージの海が見えるのか、また、それを実際に描いてみるというような、その感覚にすごく似ています」
 教育もかねて音楽のように香りを楽しむ「香楽(こうがく)」は、日本では特に嗅覚の教育が遅れているという。絵を描くように香りでイメージの世界を作り上げて一つの作品にすることができるのではないかと話す。
 「目に見えない世界ですが、それを実際に小さな子どもからご高齢の方まで香楽教室の生徒さんとやってみたのですが、ご高齢の方など『私、18歳の頃に戻っちゃったわ』などとおっしゃって、その頃を思い出したりして楽しんでくれました。鼻は脳に直結しているので、一気に時間も飛んで想像の世界に連れて行ってくれるのです。皆さんがちょっとでも楽しいなって気持ちが動いたり、少しでも感動してくれるのは嬉しいですね。ファッションも同様に、自分が作ったものに対して誰かの心が少しでも動いてくれたら嬉しいです。モノを作っていて一番楽しいのがそこなんです」
 新しい時代の先駆者か!繊細でユニークで何ものにも縛られることなく自由な感性を持ち続ける「トータルファッションクリエイター山下武尊」の活躍が、これからの時代に期待されるのかもしれない。

取材中の山下さん

取材中の山下さん

イギリスの語学学校のクラスメートと(前列中央)

イギリスの語学学校のクラスメートと(前列中央)

ロンドン芸大の友人たちと(左から2番目)

ロンドン芸大の友人たちと(左から2番目)

ロンドンではモデルとしても活躍していた山下さん

ロンドンではモデルとしても活躍していた山下さん

ロンドン市内を友人と散策

ロンドン市内を友人と散策

泣<Cリリィの代表取締役の母、山下文江さんと

泣<Cリリィの代表取締役の母、山下文江さんと

作品

作品

作品

作品

境界線

*山下 武尊 プロフィール

多摩美術大学 工芸学科 金属専攻(彫金/ジュエリーデザイン)卒業後、ロンドン芸術大学LONDON CALLAGE OF FASHION BA WOMENSWEAR でファッションデザインを学ぶ。
 帰国後、トータルファッションクリエイターとして活動を開始。自身のブランドを立ち上げ、衣装制作の他、フレグランス(香水)を始め、アクセサリーやライフスタイル商品などのデザイン企画、開発を手掛ける。現在、有限会社メイリリィ商品企画開発部長。

*有限会社メイリリィ

神奈川県横浜市都筑区茅ケ崎中央3-1
TEL:045-530-4872 FAX:045-530-4873
http://www.maylily.co.jp/


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