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おもしろ日本美術

おもしろ日本美術2 第五回

キャンバスは皿とばかり自信のポーセリン・ペインティング

色絵舟遊人物絵七寸皿

色絵舟遊人物文中皿

色絵舟遊人物文中皿

 有田の初期色絵である古九谷様式の作例と同様、柿右衛門手においても中国の画譜(飜刻出版の版本)の挿画に依拠する作例を見出せる。「周茂淑愛蓮文大皿」(出光美術館)しかりで、寛文年間飜刻の『五言唐詩畫譜』(『八種画譜』のうち)の採蓮図から図取りしたと確認できるが、まさにその同一上絵付絵師による、ほぼ時期を同じくする図柄違いの人物図色絵が本作「色絵舟遊人物絵中皿」である。どちらも繊細かつ流麗な線描きと高雅な配色のダミさばきが秀逸で、朱色の細書きの波の描写ひとつにも非凡な才能を見る。

 前者は、蓮の花をこよなく愛でる高士周茂淑を池の対岸に座す形で配置し借用した採蓮図の図様を対峙させ、みごとに定番の画題「周茂淑愛蓮図」に転化させていたが、本作も『五言唐詩画譜』や『七言唐詩画譜』所収の挿画の合成編集の末に生み出された苦心の作と判断できる。陽春の湖畔でののんびりとした船遊びの抒情が快い。

同系統の人物色絵

同系統の人物色絵

参照された八種画譜の挿画

参照された八種画譜の挿画

三枚組皿

三枚組皿

 同手のものが、ドイツの国立ドレスデン美術館のキャビネットに収納展示されていたと云い、図柄を取り込んだヨーロッパ磁器も知られている。「傘人物図」「司馬温公甕割図」「姫御殿」「寛文美人図」「唐子遊図」などとともに、柿右衛門様式色絵の人物画の人気パターンに数えられよう。なお、ほかに同系統の色絵として出光美術館蔵の舟上で釣りを楽しむ恵比寿・大黒を描いた「遊舟図輪花大皿」も知られるが、こちらは幾分時期が下がりやや大味の感がある。

 田中丸コレクション中に同手の品が知れる。また、古い図録の写真カットを見るに、八寸・七寸・六寸強の三枚組物として流布した可能性が指摘できる。

 そもそも、当初の絵付けやその下絵作成に当たっては、御用絵師狩野派や琳派の人気絵師が関わったとおぼしき伝承もあり、確かに本作のように質の高い絵画表現も散見される。

 ただ、焼物の絵は着物地や漆器の装飾と同様、対象物・景物をいかに巧みにデザイン化、図案化していくかといった面や、職人たちが手際よく効率よく数をこなしていけるような工夫が求められたようで、あえて絵画としての造形的な完成度を求めないこともあったようである。


上野 憲示
上野 憲示

1948年、大阪生まれ。

東京大学文学部美術史学科卒業。栃木県立美術館学芸員。東京大学、清泉女子大学などの非常勤講師(美術史学・博物館学担当)を経て、現在、文星芸術大学学長ならびに芸術理論専攻教授。

著書に『鳥獣人物戯画(日本絵巻大成六)』(中央公論社)、『渡辺崋山の写生帖』(グラフィック社)、『ハイビジョン鳥獣人物戯画』(ハイビジョンミュージアム推進協議会)、おもしろ日本美術1(文星芸術大学出版)など、美術史家、美術評論家として活躍。


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