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おもしろ日本美術

おもしろ日本美術2 第六回

輸出伊万里はヨーロッパと日本の美意識のキャッチボール

柿右衛門色絵梅菊文輪花七寸皿

色絵梅菊文輪花皿

色絵梅菊文輪花皿

 極薄で軽く仕上がった高度な成形。完璧な濁手の白磁素地の上に施された瀟洒で垢ぬけた梅・菊の小花散しのモダンな赤絵の上絵付け。その完成度の高さは肥前磁器柿右衛門様式の完成期のピークを示している。同手の八寸皿が酒井田家にあり、すでによく知られているが、その七寸版にあたる。
 注目は、本品が描画が主体の絵皿ではなく文様化された図様を配置する、いわゆるデザイン皿であるということである。実際、現代にも通用するヨーロッパ向きのデザイン磁器が、江戸時代初めに、さりげなく制作され輸出されていたということであり、日本人職人の鋭敏な感性と柔軟な対応に驚かされる。
 はたして、意匠デザインが発源的なものか、それともいろいろ展開された上で定まってきたものかといった疑問があるが、京都友禅や能衣装などの染織の文様デザインとの関連や漆器の蒔絵装飾の意匠との関連も想定できよう。小花散らしというか、切り花の文様的あしらいは、まさしく絵柄の意匠化、商業デザイン化の妙であり、その高雅な芳香は同時代の尾形光琳の冬木小袖に通じる。絵師の仕事では、「図取り」なる、図柄や構図の借用がひんぱんに行われるが、臨模、倣○○ノ法といった倣製から創作への展開をみる例が多いが、商業べースでは日常茶飯事のことである。
 ヨーロッパ陶磁では、薔薇、アザミ、矢車草をはじめ、草花絵柄は身近でなじみのものとして時を重ねており、マイセン小花散らし、インド更紗風の散花文、イギリスのインドの木、ドイツ・ブルーメン、ウィーン窯の一輪描き、コペンハーゲン窯のフローラ・ダニカ、トルコのイズニーク手・・・等々愛好家も多い。かつてマイセンのザクセン王宮内で設定された専用花柄文様も知られている。
 そこで論ずべきは、キャッチボール現象は当然としても、そもそものはじめは東洋趣味か西洋趣味かといった点であろう。本品の構成の特徴としては、極端に対称を意識した配置。ヨーロッパ好みとも言えるが、厳密倣製の例は少ない。
他の柿右衛門手の例

他の柿右衛門手の例

マイセンの倣製品の例

マイセンの倣製品の例

型押し八弁の輪花、周囲に瓔珞の縁文様、センターに一輪の花びら文、点対象に梅の小枝と菊花の茎を二点づつ配置。梅は梅鶉図の梅の枝ぶりとほぼ一致。黒線に赤、青、緑、黄のダミのせ。金彩はなし。三果文皿のような三方構成は数多いが、極端なシンメトリーを好まない日本人の伝統的な感性からすると、本品の梅の折枝と菊切株を二つづつ向かい合わせる構成は異色であり、むしろヨーロッパ側の指定注文を想定すべき可能性が高いと見るべきであろう。
 ちなみに、オランダ東印度会社の詳細なデザイン指定の例が知られている。1662年に長崎出島商館にVOCのアムステルダムの本社を通じ、バタビアの支店用のテーブルウエアの仕様注文がなされているし、ヘッセン方伯家の3人のコレクターであるマリア・アマーリア、ウィルヘルム8世、フリードリヒ2世の特別注文があったりとの記録もある。ウィルヘルム8世は1747年に東洋磁器をすすめる美術商ファン・ダイクに柿右衛門色絵が好ましいと指示したという。
 オールドジャパンと呼ばれる定番のマントルピースの上に飾る壺と花瓶のセット(壺と花瓶5個一組)や一対セットの蓋付六角壺(ハンプトン・コート・ジャー)をはじめ、髭皿、ビール・ジョッキ、鳥や獣の置物、色絵ケンタウロス文皿、インク壺と砂消しなどは、まさしく、旺盛な注文活動の賜物であると言えよう。(英国スタンフォードのエクセター侯爵の居城バーレー・ハウス旧蔵品の1688年8月21日作成の調度目録も現存)


上野 憲示
上野 憲示

1948年、大阪生まれ。

東京大学文学部美術史学科卒業。栃木県立美術館学芸員。東京大学、清泉女子大学などの非常勤講師(美術史学・博物館学担当)を経て、現在、文星芸術大学学長ならびに芸術理論専攻教授。

著書に『鳥獣人物戯画(日本絵巻大成六)』(中央公論社)、『渡辺崋山の写生帖』(グラフィック社)、『ハイビジョン鳥獣人物戯画』(ハイビジョンミュージアム推進協議会)、おもしろ日本美術1(文星芸術大学出版)など、美術史家、美術評論家として活躍。


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