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おもしろ日本美術

おもしろ日本美術2 第九回

豪華絢爛、赤絵磁器に黄金の装い

金襴手花籠文八角皿

金襴手花籠文八角皿

金襴手花籠文八角皿

 肥前の色絵では、1690年代あたりから、主力を、白地の余白を活かした瀟洒な柿右衛門様式のものから新たな黄金の輝きを前面に押し出した金襴手様式へ大転換がなされた。指導者、現場絵付職人の世代交代もあったと思われるが、絢爛たる見栄えの割に量産がきき、1684年の展海令で復活なった中国の景徳鎮に価格競争で勝てるものをという苦肉の選択であったのでもあろう。
 そもそも磁器の金銀彩は、1660年ごろの初代柿右衛門(喜三右衛門)の案出と開発(三代目当主の『申上口上』に「赤絵物ニ金銀之焼付候儀も、親柿右衛門工夫仕焼覚」とある。のち銀彩は変色著しくとりやめ。)、周辺の窯に一気に拡がった経緯がある。
 ただ、金襴手(染錦金彩)といっても、時代によって傾向が異なるし、すこぶる多彩である。いい例が婦人像のフィギアであり、柿右衛門様式のものは寛文美人(延宝期)、金襴手様式のものは元禄美人(元禄〜正徳期)の違いがあった。
金襴手花籠文八角皿大皿三枚組(本品は右、左は栗田美術館蔵)

金襴手花籠文八角皿大皿三枚組(本品は右、左は栗田美術館蔵)

同マイセン倣製品(九州陶磁文化館蔵)

同マイセン倣製品(九州陶磁文化館蔵)

色絵花鳥菊文輪花皿および色絵菊花文皿(本歌の伊万里は大英博物館、出光美術館等所蔵)

色絵花鳥菊文輪花皿および色絵菊花文皿(本歌の伊万里は大英博物館、出光美術館等所蔵)

ダービー社他倣製品

ダービー社他倣製品

 金彩の輝きにバロック的な躍動感を持つ輸出絶頂期の赤・青・金主体の染錦金襴手。鍋島の新案を担った元禄柿系の金襴手。幕末から明治にかけて上手ものの再現を図った大聖寺もの。近代民間貿易で海外受けを狙ったもの等と、それぞれ違う。用途も輸出向けのものと、将軍や大名高家への献上もの、国内ハレの宴席用食器(寿もの)、内需の日常雑器等々と趣向も異なる。
 まず、17世紀末に染付素地に赤・金のみのタイプがニュータイプの輸出伊万里としてスタイルが定着し人気を博する。いうならば、中国嘉正(1522〜66)年製赤絵金襴手様式の影響を受けたものであった。染付の青の面にのびのびとした金彩が施され筆の走った躍動感溢れる赤絵金襴である。赤の面に金彩はやや遅れての技法という。
 西洋の城郭や館のインテリアとして大型磁器の需要も増え、マントル・ピース上の調度(大壺3・花瓶2のセット)、対の大壺など定番のセットものが数多く輸出された。小品では、煎茶椀に小皿を添えてのボウル&ソ−サーも人気商品となり、ほどなく取手付きのカップも作られC&Sとして定番化する。
 注文制作の見本品としては、当然ながら、中国景徳鎮明末のものが示されたと思われ、オランダのデルフト窯の見本に触発されてか、髭皿、ピッチャー、ポットなどの日本風意匠ながらも、すこぶる西洋的な形態の趣向品や、絵付けも、ギリシャの神々を描いた絵皿や紋章入りの特注品も知られている。異国趣味に訴えた浮世絵美人や桜花なども少なくなく、加えて紅毛人、南蛮船等々の図柄も時に描かれた(こちらは主力は国内向けか)。
 また、当然、染付素地に赤・金だけでなく緑・黄・青・紫・黒など多色構成のタイプも出現。将軍家や高家への進物用として精緻な手わざを誇る献上手は、大明万暦年製との高台銘に象徴されるように、ずばり中国万暦赤絵の影響を受けた口縁部折縁の深鉢の上手ものが多い。時に、地色を赤にしたものと青あるいは緑にしたものの2パターンのバリエーションが組まれたことが知られている。
 なお、景徳鎮側の、逆に柿右衛門手、古伊万里手を写したものもチャイニーズ・イマリとして流通している。伊万里金襴手の倣製はヨーロッパ各地に拡がり、マイセン、チェルシー、ウースター、ダービー、スポード・・・と、幾分ヨーロッパナイズを強めつつその系脈は現代にまで至っている。
 本品の金襴手八角皿は、大中小大皿三枚組セットの一枚としてヨーロッパで愛好され日本に里帰りした元禄期の輸出伊万里の典型品で(クリスティーズの競売に掛ったもの)、マイセン窯の忠実な倣製品(九州陶磁文化館蔵)が知られている貴重なサンプルである。しっとりとした伊万里の風雅に対し、マイセンでは赤の色面を広げ、赤金の金彩も強調され鮮やかで華美なものとなっており、興味深い。


上野 憲示
上野 憲示

1948年、大阪生まれ。

東京大学文学部美術史学科卒業。栃木県立美術館学芸員。東京大学、清泉女子大学などの非常勤講師(美術史学・博物館学担当)を経て、現在、文星芸術大学学長ならびに芸術理論専攻教授。

著書に『鳥獣人物戯画(日本絵巻大成六)』(中央公論社)、『渡辺崋山の写生帖』(グラフィック社)、『ハイビジョン鳥獣人物戯画』(ハイビジョンミュージアム推進協議会)、おもしろ日本美術1(文星芸術大学出版)など、美術史家、美術評論家として活躍。


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