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おもしろ日本美術

おもしろ日本美術2 第十一回

絵付職人の息づかいが伝わる珠玉の器

伊万里献上手窓絵唐花獅子文鉢

献上手窓絵唐花獅子文鉢

献上手窓絵唐花獅子文鉢

 一般に「献上手」と呼び慣らされている古伊万里色絵の一群がある。錦手(染錦、金襴手)などの内、特に上手のものを指しての呼称であるが。将軍家や大名、高家などに実際に献上された可能性は定かでなく、概して「献上品」に相当する高品質の最上手ものといった意味合いである。中には「壽」の字をデザイン化した祝儀用ハレの品々も多く、「壽物(すもの)」(山下朔郎氏論)といった語をこれに代替することも可能であろう。
 その端緒はと見ると、茶人たちの人気を博した中国嘉靖年製、万暦年製の金襴手(ただし、中国ではほぼ民窯主体)の倣製であり、京阪の上層町衆や各地の富裕商人・豪農層の需要を掘り起こして、国内の販路を一気に拡大していったものと判断される。国内向け「古伊万里」は、上手ものに限らず染付、染錦、金襴手等々、従前の唐津焼の販路に相乗りして、北前船で、列島の津々浦々、北陸や秋田、北海道など日本海沿岸の網元や豪商・豪農の下へ、ハレのテーブルウエア・セットとして大量に出荷され流通していったそんな経緯が見えてくる。
類作「色絵窓絵唐花獣文鉢」

類作「色絵窓絵唐花獣文鉢」

静嘉堂蔵「献上手鉢」とマイセン倣製品(ドレスデン美蔵)

静嘉堂蔵「献上手鉢」とマイセン倣製品(ドレスデン美蔵)

見込みに柿右衛門手の色絵を認める献上手鉢(ドレスデン美蔵)

見込みに柿右衛門手の色絵を認める献上手鉢(ドレスデン美蔵)

 しかるに、輸出向けにあってもこの「献上手」は決して対象外の品ではなく、珠玉の厳選品として内々に強い引き合いを得たと見られ、ドレスデン国立美術館の蔵品中にも、国内静嘉堂文庫蔵品の逸品「色絵鳳凰唐花文十二角鉢」等とほぼ同等の伊万里錦手上物の十二角鉢の類と、さらにはそのマイセンの倣製品「色絵唐花文十二角鉢」がある。
 それらは総じて規格性が重視された「型もの」であり、ろくろ挽きでおおまかに形を成し、さらに土型でこれを整形。形状は基本形のボウル形の鉢、縁を外側に折った形の兜鉢、独楽の形に似た独楽鉢等の数パターンに限られたようである。
 柿右衛門窯はこの錦手分野でもパイオニアとして存在感を示したと見え、柿右衛門家文書『申上口上』、あらゆる素地への対応が物語る『土合帳』からも明白である。
 高台内に元禄6〜12年の年紀と「栃」のイニシャルを記すいわゆる「元禄柿」については、幼少の七代目当主に代わって窯主を代行した人物を当てる向きが強い。当初より藩窯「鍋島焼」の運営は、秘匿性が高く職人の隔離や非公開を旨としたが、その元禄6年の組織改編に当たって、別格(準藩窯)の柿右衛門窯に技術提供を期待するところが高かったのであろう。対応した窯主代行が「柿鍋手」と通称される鍋島焼に近い新様の高品位のものを案出し、これに答えるべく努力を重ねたものと判断される。それらはまた、まさしく一連の前の「献上手」に脈絡の通じるものであった。
 本品は、典型的な「献上手」丸鉢の一例で、ほぼ同じデザインの類作「色絵窓絵唐花獣文鉢」(柴田コレクション4-24)も知られている。見込みに染付と金彩で獅子を軽妙なタッチで描き上げ、その周囲を三つの唐花を配した花頭窓と格子状の地文で埋め、外周は白磁の余白を活かしつつ洒脱に鳳凰と麒麟を線描きしている。格子文のパターンは入れ子升状のもの、光彩を放つ日輪状のもの、向日葵の大輪状のものの三種であり、これらは多くの「献上手」に共通する定番デザイン・ユニットである。その他、花頭窓の形状や金彩の控えめな布置等、所々に類似点が指摘できよう。
上野 憲示
上野 憲示

1948年、大阪生まれ。

東京大学文学部美術史学科卒業。栃木県立美術館学芸員。東京大学、清泉女子大学などの非常勤講師(美術史学・博物館学担当)を経て、現在、文星芸術大学学長ならびに芸術理論専攻教授。

著書に『鳥獣人物戯画(日本絵巻大成六)』(中央公論社)、『渡辺崋山の写生帖』(グラフィック社)、『ハイビジョン鳥獣人物戯画』(ハイビジョンミュージアム推進協議会)、おもしろ日本美術1(文星芸術大学出版)など、美術史家、美術評論家として活躍。


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