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おもしろ日本美術

おもしろ日本美術2 第十二回

ヨーロッパ人の異国趣味をくすぐる泰平の世満喫の艶麗な元禄風俗

伊万里染錦御所車婦人文大壺

染錦御所車婦人文大壺

染錦御所車婦人文大壺

 ツインガー城やシャイロッテンブルク城をはじめヨーロッパの城郭や貴族の館などを訪れると、時にゴージャスな日本の古伊万里の大壺が飾られていることがある。それは、まさしく、18世紀ごろの後期ゴシックの宮殿装飾としての磁器大壷の流行を物語るものであり、栗田美術館蔵自慢の高さ130cmの桜文大壺などをはじめとする東洋陶磁の名品がプロイセン王のもとにあって、それらをザクセン選帝侯アウグスト強王が龍騎兵600人と交換したという象徴的なエピソードも語り伝えられている。イギリスのバーリーハウスの「色絵金彩獅子牡丹文蓋付壺」(88cm)も当時収蔵の優品である。
壺瓶5点セット組

壺瓶5点セット組

伊万里風俗画文大壺の例

伊万里風俗画文大壺の例

延宝風俗の作例

延宝風俗の作例

デルフト倣製品

デルフト倣製品

さやの大きさ制限をクリアし巨大な造形を可能とした有田の職人の技術力は、まさに賞賛に値するが、高さを稼がんとの蓋のふくらみや飾りつまみ等への工夫も興味深い。ヨーロッパの需要としては、マントルピースの飾り用に、3つの沈香壺と2つの花瓶の5点セット組が基本であり、「オールドジャパン」と呼ばれる金襴手・染錦手の色絵壺も好まれ、一部柿右衛門様式の壺も散見される。李朝好みの胴は、八角に面取り整形したものも見られ、そしてほとんどに帽子型の蓋が付属している。なお、オランダのデルフト窯、ドイツのマイセン窯の5点セットものの倣製も知られるが、大量輸入の状況があってか比較的数は少ない。
 絵付けに天下泰平をしのばせる上層町衆の風俗描写を意匠化した作例も多く、「延宝」との年号が主要女性の衣装に隠し込まれた「色絵桜下酒宴之図大皿」(栗田美術館蔵)も伝存し、人物表現の酷似する「染錦吉野山観桜遊楽文大壺」(栗田美術館贓品、「海を渡った日本のやきもの」所収作品等)なども同時期のものと判断できることから、この手の遊楽図ものが既に延宝頃からつくられ元禄期にかけてさらに充実していったものと想像される。
 富裕な女性風俗の描写は、菱川師宣の「浮世絵美人絵図」など絵手本などをもとに皿山の陶画工たちが図取り工夫。婦人の顔貌表現は、延宝から元禄へと時代の推移とともに微妙にニュアンスを変えていく。
 さて、本作品「染錦御所車婦人文大壺」は、天下泰平を謳歌する富裕町衆の気分を反映した艶麗な元禄婦人風俗がたっぷりとした筆で描かれ、甲盛の高い共蓋が添う輸出伊万里の大壺の完好な例で、染付の釉下の青に金、赤の上絵を重ね、さらに黒だみを施す献上手に近い見事さで元禄盛期の傑作と見たい。他に同図の大壺2点(栗田美術館他蔵)の存在も知られ、また、意匠の共通する染錦美人図花瓶(栗田美術館蔵)も指摘でき、まさしく5点セット組から別れた連れと理解できる。挿図としてセット組の復元写真を添えておく。


上野 憲示
上野 憲示

1948年、大阪生まれ。

東京大学文学部美術史学科卒業。栃木県立美術館学芸員。東京大学、清泉女子大学などの非常勤講師(美術史学・博物館学担当)を経て、現在、文星芸術大学学長ならびに芸術理論専攻教授。

著書に『鳥獣人物戯画(日本絵巻大成六)』(中央公論社)、『渡辺崋山の写生帖』(グラフィック社)、『ハイビジョン鳥獣人物戯画』(ハイビジョンミュージアム推進協議会)、おもしろ日本美術1(文星芸術大学出版)など、美術史家、美術評論家として活躍。


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