アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「地域レポート」No.12

伊万里開窯400年 柿右衛門の系譜 ―楠木谷から南川原へ― -文星芸術大学学長 上野憲示氏-

グローバルな流れの中で日本の宝を紹介

今年は有田(伊万里)焼開窯400年を記念して、全国的に様々な催しものや企画展が開催されている。栃木県宇都宮市の上野記念館(文星芸術大学系列博物館相当館)では、「柿右衛門の系譜―楠木谷から南川原へ―」として10月3日から展示会を開催する。2014年1月に「柿右衛門KAKIEMON―その草創から輸出特需に沸く興隆期までー」として展示会を開催しており、今回は『柿右衛門』第2弾。開催を前に、文星芸術大学の上野憲示学長に話をお伺いした。

 

「今回のチラシやポスターに使用されているすべての作品は、出土陶片一致の伝世藍九谷、藍柿右衛門、染錦色絵です。つまり、何らかの失敗作として捨てられた陶片で『物原(ものはら)』と言って、登り窯の横にゴミ捨て場がありますが、そのゴミ捨て場の層が積もっていて、そこから出土した陶片と一致する作品なのです。積もった層からどのあたりの年代に作られた作品か、だいたい分かるのです。また、作品によっては年号が入っているものもあります」

ポスターに掲載されている作品の実物を見せていただくと、どの作品も実に繊細で崇高であった。ガラスの向こう側で厳かに鎮座し、個々に強烈な個性を放っていて存在感がある。

「17世紀後半にはオランダ東インド会社の仲介により、ヨーロッパの王侯貴族たちが求める高品質の乳白色地の色絵磁器を量産し、熱いジャポニスムのうねりを呼び起こしました。これは後にマイセン窯の成立を促すことにもつながります。ヨーロッパの館にタイムカプセルのように保存されていたのですが、それが今や公開されたり、日本に里帰りしたりしました」

陶器にまつわる歴史と文化を語る上野学長は「今回の展示会は、愛好家向けの骨董というのではなくて歴史的、学問的に位置付けて展示をするのが目的でもあります。また、日本の国宝の手描きの陶器と、ジャポニスムの影響を色濃く受けた海外のマイスター手描きのマイセンも展示していますので、日本とヨーロッパの両方の優れた作品を見ることができるよい機会かと思います」と、展示の役割と目的を説明された。

そして、肥前磁器の歴史をひも解くと、その草創期からヨーロッパ向け特需時代へ、柿右衛門窯は大きな役割を果たしたと話す。柿右衛門は現在15代目が作家として、また窯を守り日本文化を保持する責務を負っているという。濁手をつくる企業秘密があり、また岩絵の具を溶かす方法などの家伝も、長子のみがそれらを引き継ぐという柿右衛門窯の伝統文化の中で、脈々と歴史を繋いできた。

「初期の染付も色付けも九州の有田、伊万里です。時代的には古九谷様式から、色の明るい柿右衛門に移っていったのです。『古九谷』の産地論争も、その大部分が九州有田産で国内向けの初期肥前磁器であったとされる今、本展では、有田の主力窯であった柿右衛門系列の窯の歴史に焦点を当て、古九谷様式から柿右衛門様式への変遷を辿り得ることを、さまざまな資料から紹介します」

また、上野学長は、古伊万里研究の第一人者である小木一良(おぎいちろう)氏を師と仰ぎ、今も学ぶ姿勢を崩すことがない。

「現在、小木先生は82歳でお元気で研究に励んでおられます。私は学長ではありますが先生の弟子でもあります。研究のために古窯出土の陶片に着目し、その分析で小木先生にご指導いただきました。できれば窯場から出てきた陶片と一致する『伝世品』を集めなさいと言われまして、染付関係の典型的なものを集めてきました」と上野学長。美術史学の基本は「机上の論ではなくて、実際のものに準拠すること」が学長の理念であった。

「記念館では日本の宝を預かっているのです。預かっている間こわしてしまったら申し訳ありません。作品は慎重に扱い丁寧に保存しています。日本の宝物を多くのみなさんに見ていただきたいと思います。今、日本は2020年のオリンピックを控えていますが、このようなグローバルな流れの中で日本のインパクトの強い作品として、さらに広く世界に柿右衛門が紹介されることを願っています」

(取材/2016年9月14日)

上野記念館展示場にて上野憲示氏

色絵双鶴文輪花皿

色絵祥端丸文徳利

「承應貮歳」銘桐並文方形小皿

「承應貮歳」銘入り小皿

マイセンに影響を及ぼした作品1

マイセンに影響を及ぼした作品2

柿右衛門色絵作品

染付花唐草虎文大皿(右から2番目)

マイセンの作品コーナー

藍九谷の染付皿群

上野憲示氏。展示場にて

上野 憲示(うえの けんじ)

上野 憲示(うえの けんじ)

1948年、大阪生まれ。

東京大学文学部美術史学科卒業。栃木県立美術館学芸員。東京大学、清泉女子大学などの非常勤講師(美術史学・博物館学担当)を経て、現在、文星芸術大学学長ならびに芸術理論専攻教授。美術史家、美術評論家として活躍。

著書

『鳥獣人物戯画(日本絵巻大成六)』(中央公論社)、『渡辺崋山の写生帖』(グラフィック社)、『ハイビジョン鳥獣人物戯画』(ハイビジョンミュージアム推進協議会)、おもしろ日本美術1(文星芸術大学出版)、KAKIEMON おもしろ日本美術2(文星芸術大学出版)、他。