アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「地域レポート」No.2

東日本大震災被災地への支援 -認定NPO法人とちぎボランティアネットワーク事務局長、矢野正広さんに聞く-

東日本大震災の被災地ではボランティアが圧倒的に不足していることから認定NPO法人とちぎボランティアネットワークは、「とちぎからボランティア2万人」キャンペーンを展開し、被災地への支援を呼びかけている。震災発生から4か月が過ぎ、支援のカタチも変わりつつある。同ネットワーク事務局長で、内閣府・ボランティア活動検討委員会委員、震災がつなぐ全国ネットワーク事務局長でもある矢野正広さんに話を聞きました。

震災から4か月経過し、支援のカタチは変わりつつある

これまでのボランティアによる被災地支援は浸水家屋の片付け、瓦礫の撤去などが中心で、例えれば、事故が起きて、負傷した人を病院に入院させて、ベッドサイドで看病して、集中治療室から一般病棟に移ったという段階です。これから看病とリハビリが始まるという状況で、そこの部分は長くなるでしょうね。これからは被災者が仕事を見つけるなどして社会復帰していくということになっていきます。

どういう支援が必要かは、人によって違います。いままでは命をつなぐための衣食住の支援という誰でもが思いつく支援の仕方でした。ここから先は、個人個人で違ってきます。仮設住宅に住んでいる高齢の方々、家、家族を失った男たちとか。暮らしの条件など、それぞれ違いますから。

大枠では仮設住宅に住んでいる人たちの支援、避難生活の支援ですが、特に仕事づくりの支援を頑張らなければいけないと考えています。これから被災地で起きてくる問題は、生活するためのお金の問題、仕事をどう見出していくかという問題です。

ボランティアは、自分の思いを実現させるという側面もありますが、被災地に行ってみると、経済的な問題など「自分の思い以外の」いろいろな問題点があることに気付きます。それをどう解決していくかというところまで考えていかなければなりません。

活動の初期は、被災地に足りない物資を届けなければなりませんが、ある時期になったら、そこに仕事をつくってお金を発生させ、自ら購入するという仕組みにしたほうが被災地は元気になるわけです。

贈与という行為は、強いものと弱いものをつくってしまいます。「いつまでも頼っていたくない」という対等性の思いが人間にはありますから、そのことをわかっているボランティアの達人は、「いまは、物を提供してもらっているけれど、あなたが自らできることはないの?」という働きかけをしていって、相手と一緒に何かをつくっていくという活動になっていくのです。

それが、「仮設住宅での苦しい生活を何とかしましょう」というような動きであったり、「一緒に仕事を生み出しましょう。私たちが売るからあなたは商品をつくってくださいね」というようなかたちに役割分担していくことになる。それが被災者への元気付けになるわけです。私たちは、ゾウをかたどった手拭きタオル「まけないぞう」を避難生活をしている被災した方々に製作して頂き、それを仕事にしていく活動を始めています。

災害時にできるのだから、日常でもできるはず

東日本大震災では、テレビなどのメディアを通して遠隔地の被災地の様子を知り、高速道路が発達しているので遠隔地でも自力で被災地に駆けつけることができます。こういう状況を私は助け合いのグローバリゼーションと言っていますが、もし被災地の映像を見ていなければボランティアに行かなかったということも言えるのです。いま問題になっている無縁社会というものも、実はそれとリンクしている。隣りで暮らしている人が孤独死したことを新聞で見てはじめて知るという状況と同じです。NPOは、自らがメディアであると同時に、助けあいの関係性をつくっていく能力がないといけないと考えます。助け合いの共同体のようなカタチをつくるためにNPOは活動していると思ったほうがいい。災害のときにできるのだから、日常でもできるだろうというのが、私たちの考えです。

例えば、被災地の炊き出しで食事の供給をしていますが、日常的にもホームレスのための炊き出しをすればいい。私たちはこれからフードバンク活動を始めます。安全に食べられるにもかかわらず、やむをえず廃棄されている食品を企業等から寄贈いただき、福祉施設や生活困窮世帯など支援を必要とする人たちに運び、有効に活用してもらう活動です。震災の影響で生活困窮者が増えることが予想されます。食品だけでも供給できれば、その間に仕事を探すこともできるかもしれない。そういう日常の仕掛けを考えています。

個人の気持ちを素早く集めて被災地に送り出せる能力を持った組織を全国各地に

首都直下型地震、東海・東南海地震が近い将来起きるだろうと予想されています。震災に備えて何をするのか。国ができないことがいっぱいあります。それを、地域の人に任せておけばできるというわけでもない。周りが応援するしかないのです。支援に行きたいという個人の気持ちを素早く集めて、被災地に送り出せる能力を持ったNPOや市民団体を全国各地につくっていかなければなりません。

日本は災害が多いにもかかわらず、災害の経験を次に生かせていない。災害時の救援の経験を被災地以外の人たちが共有していない。その地域の経験が他の地域に生かされていない理由には、行政や自分たちの頭の中の縦割りのシステムの問題もあります。そうしたハードルを乗り越えられるのはNPOや市民団体しかないと思っています。