美しいボロロ族の女性たち
ナイジェリアのクワヤシャニで遊牧民のボロロ族に出会ったが、彼らは所有する牛に植物を食べさせるために移動し、丸い小屋に居住していた。小屋の周りでは、背中にコブがある種類の白い牛が、硬そうな荒地の草を食べていた。
女性たちは背が高く痩せているが、鼻筋の通った美しい小顔で、着飾ればパリのシャンゼリゼを歩いているモデルのようであった。ただし、近くによると独特の臭い匂いがする。これは編んである毛髪や皮膚にべったりと何かを塗っているせいである。何なのかは分らないが牛の脂かもしれない。脂はハエや虫除け、病原菌避けなどでもあるようだ。
小屋は1mほどの高さで、丸い屋根の上にはいろいろな植物が干してあった。私から見るとただの潅木と雑草のサバンナにしか見えないが、彼女たちにとっては利用価値のある豊かな大地であり、草などは貴重な食料や薬草にもなるのであろう。
私はボロロ族の所有する牛のミルクを分けてもらうことができた。この場所では女性と子供しか見ていない。私がエチオピア人の友人と一緒だったので、ボロロ族の女性たちもあまり警戒しなかったようであった。値段の交渉はエチオピア人の友人にしてもらい、私とエチオピア人の共通語もないのだが、どうにか通じてお金を払ってミルクを手に入れることができたのだ。
「サバンナに赤い道が続く」油彩
サバンナ
サバンナ
エチオピア人の友人と後ろはトレーラー・ハウス
ボロロ族に欠けている物はない
ボロロ族にとってミルクは家族と仔牛のためであるが、炎天下のこの地では後はどの様に加工して保存利用するのかはわからない。私は買った絞りたてのミルクを、殺菌処理のために鍋で3回程沸騰させて飲めるようにした。冷めたミルクの上に5mmほどの厚さの油が固まっていた。これもバター代わりに料理に使った。
私はパリからヨーグルトをつくる機械を持ってきている。ある日、エチオピア人の友人が「これでヨーグルトができる」と葉っぱが何枚かついている小枝を持ってきた。私は半信半疑で彼女に言われたとおりやってみた。生木の小枝を火であぶり、そこから登る煙を5、6個のヨーグルトの瓶にふわふわと入れ、そこに牛乳を入れて棚においておいた。なんと、次の日はちゃんとヨーグルトができていてびっくりした。電気製品もなにもいらない。しかし私にとってはどの植物か分らないし、どれも同じような潅木である。しかし、エチオピア人の友人はボロロ族と同じようにちゃんと分っていた。
数週間後、ボロロ族のミルクを買うために再び小屋に行ったが、そこにはもう誰もいなかった。丸い家もたたんで持って行ったようだ。跡形もなくなってサバンナが広がっているだけだった。他の場所に移動したのだが、残された動植物の殻は大地を汚さず土に戻るだけである。つまり、ゴミはなし。私はまた粉のミルクで我慢するしかない。ない物はない、ここではこの生き方で生きるしかない。ボロロ族の女性たちには欠けている物などないのだ。ナイジェリアの太陽と草木とそして牛がいれば十分満たされて日々の生活ができるのだ。
エチオピア人の友人と自宅で
サバンナ
遊牧民族ボロロ族からミルクを買う。左が遊牧民移動用の家。仔牛が見える
ボロロ族と
(つづく)