1月中旬、スキーの初滑りに出かけてブーツを忘れ、この際、スノーボードに挑戦してみようとスクールに入った。申込用紙に記入しゲレンデに向かったが、ボードはスキーと違い立つこと自体が難しい。東京生まれで、妻の実家で農業に挑戦すべく10年前に脱サラし秋田へ移住した感心な指導員に、「その齢でボードを始める動機は?」と問われ、「危ないからとずっと家族に反対され続けてきた。今やらねば一生後悔すると思って」と答えた。
よせばいいのにこの顛末を秋田魁新報のフリーペーパーに連載中の『輝きの処方箋』に書いた。即反応あり、若い患者は「すぐヘルメットを買いなさい」、宅配のおばさんは「その年で…エライ!」と、呆れたとは誰も言わない。退くに引けなくなり翌週も出かけた。スキーならまず転ばないが、ボードでは転倒の連続。目を回して帰宅すると「年寄りの冷や水」と家人。
誰が言い出したか、「よそ者、若者、ばか者」が世を活性化するという。変わったことをすると咎める「足ひっぱり文化」への処方箋か。一説では、明治維新で幕府が倒れるや朝廷の公家らは幕府そっくりの体制を考え、それでは何のための苦労だったのかと西郷隆盛らは慌て、封じたという。戦も政もなくタダ飯を食うだけだった公家らは王政復古の大号令に雀躍したものの、備えもなくどうしてよいか分からなかった。彼らにすれば薩長藩士は「よそ者、若者、ばか者」だったに違いない。
40年前は外科医も麻酔科医も術中死を恐れ70歳以上の患者の手術を避けた。今は90歳でも行うが、技術革新だけでなく、「手術で体を開けると70歳の血管は昔の50代の若さ」といわれ、60の手習いは70の手習いへ、年寄りの冷や水も自嘲や自重をしなくてよくなった。ともあれ「昔から女が多い井戸端会議は時間が…」と女性蔑視ともとれない言い草に似た発言で五輪に冷や水を浴びせた爺は退任し、木を見て“森”を見ずという人もいる。超老人は「隠遁者、じゃま者、ボケ者」か。
2021/2/14
秋田県大仙市協和スキー場にて
秋田内陸線萱草鉄橋(北秋田市阿仁)
21-02-08 レター56
輝きの処方箋