ADHD(注意欠如多動症)男性の乱雑な部屋を見たことがあった。私と同じである。彼の言葉「整理整頓はいつでもできる。でも今ではない」も私の心を揺さぶった。机周りの整理を怠り探し物ばかりしている私を見かねた長女が昨年末「私がやってやる」と介入した。大切な品が2、3消え、以降、娘は部屋に入らない。なぜ発達障害系の人は整理ができないのか。今は他にやることがあるからである。ヒマでも掃除などしている場合ではない。
ある小児科医が小学生350人を調査した。要支援生徒は25人7%で、増えていると古参教諭もいう。精神科の受診患者は几帳面で神経質な人が多く、何事も程々の人はまず来ない。発達障害系の人は微妙で、渋々連れて来られるか、対人関係に悩みウツに陥って自ら受診する。
ミスの多いある看護師はたるんでいると上司に何度も叱責され、休職を願い出た。診断書に病状と対応について記載したら「開業医は信用できない」と転医を促され、紹介先の大学病院で教授も診断書を支持したが、結局転職した。逆に工場長に伴われて受診した若者は、ADHD疑いで試験投薬したところ劇的に改善した。薬効に驚いた工場長は職場で発達障害の勉強会を開き、「一度に複数の用件を言いつけない」「指示は具体的に」など対策を立て薬は不要となった。理解は最大の薬である。
スーパーで買い物中に別の用件を思いつき、レジを素通りしたところで御用となった「万引き教師」がいた。裁判所からの照会に一筆認め放免となったが、別の教師は同じ行為を幸い妻に見とがめられ、入店と同時に買い物籠を持つ習慣を身に付け難を免れている。しかし、テストの採点を忘れ通信簿が終業式に間に合わず、校長もお手上げ。他にも保母や営業などADHDには不向きな職種がある。
発達障害の増加はコミュニケーション力が必要なサービス業の増加や過剰なプライバシー尊重が原因といわれる。昔はガキ大将を先頭に子供たちは山河や海で遊び、他集団と対立すると作戦を練って戦ったものだが、体力と社会性を育むこんな機会が今の子らにはまずない。敵味方も不明瞭だ。正常から重症まで境目がないスペクトラム(連続)的個性が増えてきたのも頷ける。
ADHDには医師が天職、研修期間は指導医から命令を受け、終了後は出す側に回るからで、指示と雑務に追われ続ける看護師とは立場が真逆という意見がある。浮草だった学生時代、私は医師の適性を怪しんだ。今も続けていられるのは医師という職位のお陰か。医師会報の編集長も25年間続けているが、世の編集者の多くは私と同じ発達障害系かもしれない。(2021/7/7)
鳥海山7合目「御浜」から南を眺める
入道崎の夏(男鹿半島)
いつも一緒に~落日を眺めるジヨンとチコ~
ハートインレター60
写真撮影:大日向かなえ