マイナンバーカードの健康保険証利用により紙の保険証は消滅かと騒動である。カードには病名や検査データ、薬剤など患者情報が書き込まれ、誠に便利と国は普及に余念がない。ところが患者は負担額が増え、医療機関はカード対応装置の導入費用と書き込む手間が要り評判は今ひとつ。継承者がいないある高齢開業医は導入など考えるまでもないという。ある精神科開業医は、職員は自分と事務員1人、血液検査など一切行わず安定剤以外は風邪薬も出さない、患者も病名も少ない、電子カルテはおろかレセプトも手書き、ほっといてくれ…。
報道によれば人工知能による診察の正診率が90%を超えた。患者は診察前に渡されるタブレットの質問項目をチェックする。すると概ね正しい診断と必要な検査、治療の選択肢が表示され、医師はそれを口頭で再確認し決断すれば済む。新米医師もベテランもない。次回受診を予約し、クレジットカードで会計しておしまい…。
話はさらに先へ。へき地医療の一助として有効なオンライン診療が新型コロナを機に普及しつつある。これは極論すれば、秋田の田舎に住む患者が、首都圏の有名病院や著名医師の診察を受けられるということだ。住民も医師も減っているへき地にはダメ押しである。腕はともかく、そこにいてくれるだけで安心といった田舎医者を、「遠くの名医より近くの迷医」ともいうが、これはオンライン診療とは別次元の話であろう。
リフィル処方箋も話題だ。外来受診せずに1枚の処方箋を3回まで使える。高血圧や高脂血症など1回処方が3か月分かそれ以上出せる病気では患者も年1回くらい受診すれば済み、医療費抑制に寄与する。病勢再燃の発見は遅れるかもしれない。
欲と怠け心が進歩を促す。医療のデジタル化も例外ではない。かくてコロナ禍で遠のいた患者と医師との距離はますます拡がる。患者とは弱い者、心細い者、だから親切に―と学んだはずの医の道も危うい。すでに「パソコンの画面ばかりみて患者をみない医師」の診察風景は近未来ではなく現実となっている。2020/6/1
(地蔵の写真は著者)
十四番如意輪観音(1861年)
十六番千手観世音
十七番十一面観音
房住山409㍍(秋田県三種町 5月7日)
22-05-23 レター69