ちょっとは知られた『秋田音頭』は軽快な秋田民謡である。秋田名物、八森ハタハタ、男鹿で男鹿ブリコ(アーソレソレ)、能代春慶、桧山納豆、大館曲げわっぱ…。だが年末のハタハタ漁は低迷、男鹿半島の海岸に打ち寄せる卵の塊「ブリコ」も減った。ブリコは人が拾って食うと捕まるが、カモメどもは腹一杯ついばんでもお構いなしだ。
が、しかし、現在の秋田名物はキリタンポが断トツである。広い秋田県でキリタンポを食してきたのは県北や秋田市で、私の故郷である由利本荘など県南では食う習慣がなかった。北秋田市出身の妻と一緒になった当初、この季節に「今夜は鍋だ」というとキリタンポだった。鍋は里芋の「芋の子汁」が当たり前だった私は驚いたものである。
新米の頃に出回るキリタンポはもち米ではなく、ふだん食べるうるち米で、妻の作り方はこうだ。飯を杉の棒の先端から包むように下の方へ巻きつけ、ホットプレートで焦げ目をつける。味付けは鶏、長ネギ、マイタケ、セリが基本。砂糖を混ぜた味噌をつけて焼く「味噌タンポ」もうまい。うちの子4人にとって古里の味といえばキリタンポである。米を煮て食う料理に違和感があった私もだいぶ飼いならされてしまった。
キリタンポといえば比内地鶏。比内鶏は天然記念物なので食えばブリコ同様に罰せられる。そのため米国産のロードアイランド種と交配して生まれたのが比内『地鶏』。秋田県知事は先ごろ比内地鶏を「高い、硬い」と評し、「あの硬さがいいのだ」と非難を浴びた。この鶏の飼育には細かい規定があり、放し飼いが基本だが、そのため養鶏場は熊に襲われやすい。今年も数回やられ、「高い、硬いに熊被害も入れてくれ」とぼやく養鶏家がいた。
一方の里芋。県南の「芋の子汁」の味付けはキリタンポとほぼ同じ。鍋の芋の子が減るとキリタンポを入れて食う地域もある。芋煮会が盛んな隣の山形県では鶏ではなく牛肉で、カレールーとうどんを入れて〆るそうだが、真似してみるとやっぱり比内地鶏がいい。 2022/10/15
草生津(くそうづ)川のコスモス(秋田市内の油田から流れ出た石油の臭いから名づけられた)
秋田米の新品種「サキホコレ」
寒風山のススキ(男鹿市)