この5月、エリザベス女王は即位60周年を迎えるという。その父君ジョージ6世を主人公にした映画「英国王のスピーチ」は、ドモリの王が言語療法士の助けを借りながらその使命を果たす物語である。
幼児期からのドモリのためスピーチが苦手だったジョージ6世は、恋愛問題で王位を捨てた兄の後継王となる。当時のヨーロッパはヒットラーの台頭で風雲急を告げる状況だった。王は大英帝国の諸国民を鼓舞するためラジオのマイクに向かい、歴史的なスピーチを成功させる。そこに至る経緯が見どころで、言語療法士は、「生まれたばかりの赤子にドモリはいない」と王を励まし、厳格な父王によって左利きを右利きに矯正された3、4才ころに、ドモリが始まった事実を直視させる。利き腕の矯正が原因の一つであろうというのは当時から知られていたようだ。
文字は右手で書くが、左利きで吃音の友人がいる。左利きを直されたのが原因ではないかと、彼はあるとき母親に尋ねた。だが返ってきた言葉は、お前は生まれつきのドモリ、私に責任はない、産声だって、オ、オ、ギャーだった…。小学校時代、自分に朗読の順番が回ってくると教室全体に緊張が走り、第一声が出ると全員がほっと胸をなで下すのが分かったという。
実は私も講演を頼まれると、先生は少しドモリますねと指摘されることがある。口角泡を飛ばすような場面や緊張が強いときに出るようだが、学生時代にこの友人から感染したらしい。ドモリはうつるという説は昔からあった。
頭の回転に口が追い付かないのがドモリ、ドモリに悪い奴はいない、という説もある。実際ドモリに悩む人々の多くは早口で、悪だくみをするヒマもなくしゃべる。正直でそそっかしいのか。ジョージ6世もわが友も、ついでに私なども、ま、悪い人間ではないのかもしれないが、以上の説に確たる医学的根拠がないのがやや残念である。
我がドモ達
宇都宮のフランスレストラン前で