EU統合前のフランスの硬貨には、リベルテ(自由)、エガリテ(平等)、フラテルニテ(友愛)の三つの言葉が刻印されていた。これらは18世紀末のフランス革命期に叫ばれ、今なおフランス共和国では最もポピュラーな標語で、公的建造物などあらゆる場所に掲げられている。日本の七五調に似て響きが良いせいかもしれない。
中でも平等は、人間はすべて生まれ育ちによる差別がない、法の下では平等といった意味だが、今の日本国民のストレスの大きな原因の一つは、様々な面における不平等感かもしれない。裏返しのような悪平等もある。
38歳男性が胃の具合が悪い、仕事がきつい、眠れないと訴えて受診した。帰宅は毎晩10時ころ、日中は現場管理、夕方会社に戻って設計を始める。資格の関係で自分にしか出来ない仕事だから仕方ないが、給与が同じ同僚が毎日午後6時に帰ってしまうのは我慢できないという。どこにも要領の悪い人がいるものである。
職場のメンタルヘルスに関する講演をたまに依頼される。その度にいわゆる「上司」が部下の業務量の不平等に対して鈍感になっていないか、点検を、と話す。病院でも診察する患者数が医師によって大きく違う場合もあり、しかし給与は同じ、となれば人気のある先生は気の毒といわざるを得ない。だがこうした生真面目な人々がこの世の秩序を支えているのもまた事実である。
格差の拡大が募る現代日本。友愛は前総理に安売りされ、デフレ気味の自由は国民の一部をモンスター化し、平等はさらに危うい。せめて常に業務の公平を心がけ、職場のストレスを減らせたら…。苦労も、平等ならかなり辛抱できる。それが人間という生き物であろう。
ハートイン待合室の窓から