4車線道路はブルドーザーが作った雪の山で3車線に化け、住宅街の小路は車の交叉もままならない今冬の秋田。警笛を鳴らしても道を譲らぬ対向車に路線バスは迂回路を走るしかなく、寒い停車場で待つ人々に渦巻く呪詛の声。除雪予算は底をつき、住民の声高な苦情に行政はヤケを起こし、はかどらない作業に除雪隊も気が立っている。近所のヤクルト小母さんはブルドーザーに軽乗用車をはじき飛ばされ、怒り心頭だ。
交通手段が健脚と馬ソリだけの時代はこうではなかった。すべからく車社会のせいである。車は人をせっかちにし、寛容を忘れさせ、不平不満の雪だるまに変えてしまった。
「私には関係ありませんわ」こんなご婦人が正月明けの外来でニコニコしている。だってそうでしょ、私は定年から10年で通勤がない、夫は高齢で車をやめたから雪かきは玄関だけ、屋根が平らな小さな家に建て替えたら雪はまず積もらない、老犬も寒いと外に出たがらない、買い物は宅配…。
次に受診したご婦人はちょっと事情が違う。10年前、息子の結婚と孫の誕生に備えて100坪の家を新築した。が、ありがちな話で、結婚した息子の嫁は家風が合わないと息子と孫を連れて家を出てしまった。頭にきて眠れなくなったのがそもそもの受診理由だが、そのうち夫は認知症で施設に入り、今や一人暮らし。この雪、どうしてくれよう…。
私「どうせ子供は東京から帰ってこないと家も土地も売り払い、雪深い里から秋田市内のマンションに移り住む人もいます。お宅は田舎町のど真ん中で敷地も広い。いっそご近所の皆さんでマンションを建てたらいかが?」
患者「そんなことが簡単にできたら苦労ないわ。嫁はうちの不動産を狙っているし、第一、ボケた夫に金を貸すお人好しがどこにいますか。先生、あまりトボケたことは言わないで!」
分け入っても分け入っても白い山。とにかく、秋田はいま殺気立っている。ガス抜き?の魅力的な小正月行事が多い理由だ。
角館の火ぶり
藤田嗣治 秋田の行事から 梵天