知人の女医の親90才がある朝、ベッドで冷たくなっていた。寝乱れた様子はない。骨折で3カ月入院、退院後2週目で、やや衰弱していた。近くの医師に電話で死亡診断を頼んだら、このご時世だから警察を呼べと言う。連絡したら彼女の医院にサイレンを鳴らしてパトカーが3台も現れ、近所は朝から大騒ぎ。
往診している在宅患者も2日ほど診察していないと死体検案が必要と私たちは教わった。実際は柔軟に対応してきたが、この例のように最近当局の介入が増え、危ない患者を抱えた家族は、あとが面倒だからと在宅の看取りを嫌い、最期は病院でという傾向である。
これでは医療費が高くつく。慌てた厚労省から、24時間以内の診察がなくても不審な点がなければ死亡診断書は発行できると通達が届く。そうは言っても警察が認めている訳ではない。人が死んだら殺人か、殺人でないかを捜査するのが彼らの仕事で、彼女も母親も別々の部屋で事情聴取を受けた。業務とは言え、その尋問口調に唖然…。
数年前に福島県で、最後は無罪となったが、出産に複雑な病的事情が絡んで命を落とした人がいた。1年以上も経ってから主治医が手錠にお縄の無残な姿で、大勢の病院職員と患者が驚く中、病院からパトカーで連行された。こんな国のやり方が関係者に衝撃を与え、一時期、産科医を目指す医学生が激減したことで有名な事件である。
医療行為に求められるのは、最善の結果ではなく、最善の努力、ということになっている。結果が全てのプロスポーツ選手や、王様の治療に失敗したら首をはねられる時代の医師とは事情が違うのだが、「診療行為に伴う予期しない死亡を異状死に含める」という法医学会の指針が事態をややこしくした。
「娘が医師でも親の死因を疑ってパトカー3台もよこすなんて」と彼女は憤る。「人はうっかり自宅で死ねない。在宅医療の推進を言いながら国が足を引っ張る気なら、夜のコンビニ受診の鼻風邪さんも、バイオテロ疑いでパトカー呼ぶわ!」世知辛い世の中だ。
柴灯祭り(2月8日~10日)なまはげになる前の男たち
勢ぞろいしたなまはげ50匹
地域ごとに顔の違うなまはげ