アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「精神科医のニア・ミス」No.34

トレッキングの時代 ~多彩な旅の形~

2020年東京五輪決定の直後、JR東海は27年までにリニア新幹線で東京・名古屋を40分で結ぶと発表した。一方、JR九州は先ごろ昭和レトロ風の豪華寝台列車「ななつ星」の運行を開始。同じJRでも北海道はレールに難があるようで、旅のスタイルも、目的地まで韋駄天のように突っ走るか、移動そのものを楽しむか、ちょっとスリルを味わうか、といった具合に選択の幅が拡がった。

そういうことならと秋晴れの一日、毎日目にする五城目町(秋田県)の森山(325㍍)から八郎潟町の高岡山(同221)まで、境界の古城址・浦城(同121)を乗り越え3つの山を友人と縦走した。4時間、1万5千歩。道が途絶え心細い局面もあったが、大潟村と八郎湖、背後に広がる日本海、北に白神岳、東に森吉山、南に鳥海山を望みながら心地良い汗をかいた。各々の山は付近住民の散歩コースで、我がクリニックに通うある70代男性は森山に毎日、80代男性は浦城に朝夕2回登っている。しかし3つの山を1日で走破した話は聞いたことがない。

ところが登り口に停めた車へ戻るタクシーの運転手は、物好きだね、キノコもまだの時期にこんなヘボ山をのこのこ歩き回るなんて、と呆れる。その後数名の患者や知人に話したが反応は同様、誰も感心してくれない。別の友人は20年前に老いた父親とヒマラヤのトレッキング(山歩き)コースを歩いてきた。親父のペースに合わせてゆったり並んで歩くのが、何よりの親孝行に思えたと語っていたのが印象に残っている。

最近はスポーツツーリズムなど様々な形の旅を楽しむ人が増えてきた。団塊の世代は次の東京五輪のころ後期高齢者となる。過ぎた人生は「光陰リニアの如し」、迎える老後は「ななつ星」汽車ポッポ、無粋な飲み仲間は我々を「脱線山旅ペア」と笑うが、作家の幸田文は、「旅は回を重ねるほど旅のしかたがうまくなる。これからが旅ざかりという年齢がある」と書いている。ヘボ山トレッキングをなめてはいけない。

右の森山(325.3m)真ん中の浦城(121m)、左の高岡山(221.4m)

右の森山から真ん中の浦城を通り、左の高岡山の左側端っこまでひたすら歩いた。

浦城本丸あたり

森山山頂から大潟村、八郎湖、日本海を望む。

浦城を下り、3つ目の高岡山頂にて

尾根白弾峰

尾根白弾峰(佐々木 康雄)

旧・大内町出身 本荘高校卒

1980年 自治医大卒

秋田大学付属病院第一内科(消化器内科)

湖東総合病院、秋田大学精神科、阿仁町立病院内科、公立角館病院精神科、市立大曲病院精神科、杉山病院(旧・昭和町)精神科、藤原記念病院内科 勤務

平成12年4月 ハートインクリニック開業(精神科・内科)

平成16年~20年度 大久保小学校、羽城中学校PTA会長

プロフィール

1972年、第1期生として自治医科大学に入学。長い低空飛行の進級も同期生が卒業した78年、ついに落第。と同時に大学に無断で4月のパリへ。だが程なく国際血液学会に渡仏された当時の学長と学部長にモンパルナスのレストランで説教され取り乱し、パスポートと帰国チケットの盗難にあい、なぜか米国経由で帰国したのは8月だった。

ところが今の随想舎のO氏やビオス社のS氏らの誘いで79年、宇都宮でライブハウス仮面館の経営を始めた。20名を越える学生運動くずれの集団がいわば「株主」で、何事を決めるにも現政権のように面倒臭かった。愉快な日々に卒業はまた延びる。

80年8月1日、卒業証書1枚持たされ大学所払い。退学にならなかったのは1期生のために諸規則が未整備だったことと、母校の校歌作詞者であったためかもしれない。

81年帰郷、秋田大学付属病院で内科研修を経てへき地へ。間隙を縫って座員40名から成る劇団「手形界隈」を創設、華々しく公演。これが県の逆鱗に触れ最奥地の病院へ飛ばされ劇団は崩壊、座長一人でドサ回り…。

93年に自治医大の義務年限12年を修了(在学期間の1倍半。普通9年)。2000年4月、母校地下にあった「アートインホスピタル」に由来した名称の心療内科「ハートインクリニック」開業。廃業後のカフェ転用に備え待合室をギャラリー化した。

地元の路上ミュージカルで数年脚本演出、PTA会長、町内会や神社の役員など本業退避的な諸活動を続けて今日に至る。

主な著作は、何もない。秋田魁新報社のフリーペーパー・マリマリに2008年から月1回のエッセイ「輝きの処方箋」連載や種々雑文、平成8年から地元医師会の会報編集長などで妖しい事柄を書き散らしている。

医者の不養生対策に週1、2回秋田山王テニス倶楽部で汗を流し、冬はたまにスキー。このまま一生を終わるのかと忸怩たる思いに浸っていたらビオス社から妙な依頼あり、拒絶能力は元来低く…これも自業自得か。