2020年東京五輪決定の直後、JR東海は27年までにリニア新幹線で東京・名古屋を40分で結ぶと発表した。一方、JR九州は先ごろ昭和レトロ風の豪華寝台列車「ななつ星」の運行を開始。同じJRでも北海道はレールに難があるようで、旅のスタイルも、目的地まで韋駄天のように突っ走るか、移動そのものを楽しむか、ちょっとスリルを味わうか、といった具合に選択の幅が拡がった。
そういうことならと秋晴れの一日、毎日目にする五城目町(秋田県)の森山(325㍍)から八郎潟町の高岡山(同221)まで、境界の古城址・浦城(同121)を乗り越え3つの山を友人と縦走した。4時間、1万5千歩。道が途絶え心細い局面もあったが、大潟村と八郎湖、背後に広がる日本海、北に白神岳、東に森吉山、南に鳥海山を望みながら心地良い汗をかいた。各々の山は付近住民の散歩コースで、我がクリニックに通うある70代男性は森山に毎日、80代男性は浦城に朝夕2回登っている。しかし3つの山を1日で走破した話は聞いたことがない。
ところが登り口に停めた車へ戻るタクシーの運転手は、物好きだね、キノコもまだの時期にこんなヘボ山をのこのこ歩き回るなんて、と呆れる。その後数名の患者や知人に話したが反応は同様、誰も感心してくれない。別の友人は20年前に老いた父親とヒマラヤのトレッキング(山歩き)コースを歩いてきた。親父のペースに合わせてゆったり並んで歩くのが、何よりの親孝行に思えたと語っていたのが印象に残っている。
最近はスポーツツーリズムなど様々な形の旅を楽しむ人が増えてきた。団塊の世代は次の東京五輪のころ後期高齢者となる。過ぎた人生は「光陰リニアの如し」、迎える老後は「ななつ星」汽車ポッポ、無粋な飲み仲間は我々を「脱線山旅ペア」と笑うが、作家の幸田文は、「旅は回を重ねるほど旅のしかたがうまくなる。これからが旅ざかりという年齢がある」と書いている。ヘボ山トレッキングをなめてはいけない。
右の森山(325.3m)真ん中の浦城(121m)、左の高岡山(221.4m)
右の森山から真ん中の浦城を通り、左の高岡山の左側端っこまでひたすら歩いた。
浦城本丸あたり
森山山頂から大潟村、八郎湖、日本海を望む。
浦城を下り、3つ目の高岡山頂にて