「だれだ?」「秋田だ!」―秋田県のPRポスターが首都圏など世間様を騒がしている。そこで私が編集長をしている医師会報でも、「だれだ?」「酒飲みだ!」と題して原稿募集した。ある秋田の酒に惚れ、その酒蔵に近い病院に他県から赴任した医師、70代半ばから晩酌は自然消滅したが会合では回春し飲み過ぎてしまう80歳の医師、エタノールアレルギーのため手術前の消毒で手が赤くなる外科医など、新年号らしい随想が集まった。
9月、仙台の「オクトーバーフェスタ」に出かけた。会場はテニスコート2面ほどの巨大仮設テント。ドイツ人のアコーディオンや金管の楽隊が演奏を始めると数百人の客席も手拍子で乗る。楽隊は時々「アイン、ツバイン、ドライ、ツファ、プロスト!」と声を励ますが、ミュンヘンのビアホールで見かけたあの踊りの輪ができない。東北人では仕方ないか。
意を決し、自ら「80才の小料理屋の女将」と名乗り頬を赤く染めた隣のお姐さんを誘った。ところが彼女は、若い方がいいでしょと向かいの女性に声をかけた。75才だった。2人で踊り始めると周囲から歓声と手拍手。呼応して続々と立ち上がり、やがて前の人の肩に両手を置いてパレードになったり、ステージを囲んで踊ったりと会場は興奮のるつぼと化した。最初に踊ったあんたはエライと見知らぬ客がジョッキを持ってくる…。
日本酒は消費が激減し、しかも今の若者には高価なイメージという。私が愛飲する秋田清酒「やまとしずく」1升1800ml純米吟醸2500円を、1本750mlのワインに換算すると約1000円。味は、防空識別圏みたいに危ういこの価格帯のワインよりずっと安定している。
酒飲むは時間のムダ、飲まぬは人生のムダという。若者の酒離れは人生離れ?に通じているという人もいる。若山牧水は、秋の夜は静かに飲むべかりけりというが、老若男女がビアホールで陽気に歌い踊って飲むならば、時間のムダも人生のムダもちょっぴり中和されるような気がしないでもない。
秋田県立小泉潟公園・水心苑(林泉回遊式日本庭園)
やまとしずく(通称ヘト点)
まもなくハタハタの大群が押し寄せる男鹿の海