昔、子供たちのテニス大会に付き添った時、他チームのコーチが試合に敗れた選手にかけていた言葉が印象に残っている。「実力は互角だったが、君は相手より先に疲れてしまった。敵より1分くらい遅れて疲れる練習をしよう」と、それだけだった。他の選手にも彼は1つしか言わなかった。まさにワンポイント・アドバイスである。
幼い子供や認知症の人に用事を2つも3つも頼むと1つも果たせないことが多い。小言もたくさん並べると全部無視される。これは医師が患者を指導する際も同じで、「睡眠を十分とって、食べ過ぎに注意し、運動を心がけ…」とやるより、「午前1時に寝るのを午後11時に」と焦点を絞り、それ以外は口にしない方が有効な場合が多い。
秋田県警が発表した昨年の入浴事故死は174件で、交通事故死の約5倍だった。12月~2月に老人が寒い家庭の風呂場に入り、急激な温度変化によってショック死・溺死してしまうのである。実際、飲み仲間や患者にこの話をすると、そういえば隣の町内の婆さんが、知人の爺さんがなど必ずと言っていいくらい身近な例を挙げてくる。
一方、全館暖房の公衆浴場や温泉、自宅の「脱衣所」での事故は統計上ほぼゼロである。にもかかわらず事故予防キャンペーンは、「脱衣所と浴室を温めよう」の一点張り。温めてもあまり意味がない「脱衣所」をはずし、「浴室」に限定した方が分かりやすく、理にかなっている。
ということで一昨年、還暦祝い?に私も暖房付き浴室を導入した。瞬時に浴室が温まる。実は20年前の新築時に大工の棟梁に相談したのだが、「風呂場に暖房? バカバカしい」と一笑に付された。ところが今年80才になった棟梁は先日こうのたまった。「冬場は危ないから俺は絶対に自宅の風呂は使わない。毎日温泉めぐりさ。みんな『風呂場で死ぬのは最高のピンピンコロリ』というが、発見が遅れると浴槽で…ま、焼かれる前に溶けておくのも人生か。燃えるばかりの中東も、少しとろけて融和できないかねー」
秋田県能代名物「ベラボー凧」
大仙市協和スキー場から奥羽山脈を望む
氷の張った潟上市くらかけ沼とジオン君
和賀山塊の向こうに聳える森吉山