小型無人機ドローンは、蜂がぶんぶん飛ぶ音から名づけられたと聞くが、日本で「どろん」といえば忍者や詐欺師、都合が悪くなった有名人が姿をくらますときの擬音である。ドローンは日本で1万台以上普及というから、日本上空はさしずめハチャトリアン作曲の「くまん蜂の飛行」状態らしい。
2年前に亡くなった米国の作家トム・クランシーの「米中開戦」では、米軍がアフガンで偵察や攻撃など軍事目的で飛ばすドローンが中国のハッカーに乗っ取られ、味方が大損害を蒙る。GPSと同じで、もともと軍事目的だったこの機器も民生用に解放され、最近は災害現場の空撮や、いずれは遠隔地など不便な場所への物品搬送に威力を発揮するはずである。その生産がコピー大国の中国企業が世界トップというから皮肉である。
4月からNHKラジオのカルチャーラジオで医学の歴史物語「人は人をどう癒してきたか」という講座が始まった(*)。それによると、17世紀前後に活躍したフレールジャックという遍歴の外科医は、麻酔も消毒薬もなかった時代に年平均200例におよぶ尿路結石の手術を行い、患者の苦痛もさりながら、術後感染症で死亡率も高かったのに、なんせ旅の外科医であるから、執刀後は「あとのことは知らん顔」でどろんしたという。手塚治虫の「ブラックジャック」の元ネタかと想像するが、面倒見のいい手塚ジャックとは大違いである。
今年91才になる元日本航空学会の重鎮が、オスプレイがさんざん叩かれていたころ語ってくれた。人類は鳥のように空を飛ぶことを夢見てきた。モナリザのダビンチだって絵なんかより自分は飛行体の設計など科学者として歴史に名を残すと信じていたフシがある。ライト兄弟に始まり、ゼロ戦、ジェット機、ヘリコプターときたら、我々航空技術屋にとっては、滑走路が不要でジェット機並みに高速飛行できるオスプレイは長年の夢の実現で、パイロットの操縦が未熟な段階で悪口を言うのはモノを知らない人間だ…。
田んぼの多い秋田では数年前からヘリによる農薬散布はラジコンヘリに代わっている。首相官邸のドローン騒動後に、武家屋敷と桜で有名な角館の花見状況をドローンが撮影した写真が地元新聞の一面を飾った。医療界でも高度手術ロボット「ダビンチ」が普及し始め、世間を騒がした腹腔鏡手術も一般化している。危ない一部医師は問題だが、幸い、フレールジャックみたいにどろんできるご時世ではないのが救いといえようか。
NHK第2放送で毎週火曜午後8時半からと、同午前10時から30分の再放送。昭和天皇執刀医、東京大学・自治医科大学名誉教授・森岡恭彦先生84才が担当。6月末まで。
本を読もう(秋田県井川町国花苑 林宏・作)
森岡恭彦先生のテキスト
91才ヤスオじいさん大いに語る
角館 古城山からの眺め