去る5月31日の第82回日本ダービー。3歳馬ドゥラメンテにまたがったイタリア人騎手ミルコ・デムーロ騎手が優勝した。皐月賞と合わせ今年2冠だそうだが、彼は2012年10月の天皇賞で勝った時、即座に貴賓席前で馬を下り、ヘルメットを胸に当ててひざまずき、両陛下に最上級の礼を示した。観客席から大きな拍手と歓声が上がり、天覧試合に花を添えた。私は今回のダービー同様テレビ観戦だったが、とにかくかっこよかった。キザなイタリア人にはかなわない。
昔、長野五輪で逆の場面を見たことがある。ある日本人選手が優勝した。君が代が流れ日の丸が掲揚される表彰台で銀銅の外国人選手は帽子を取り、胸に腕を当て日章旗に敬意を表したが、この選手は帽子もとらず、やや右肩を下げて栄誉を受けた。海外メディアは即日この姿を非難したが、国内メディアは3日後に、海外で何か騒いでいるらしいと寛容だった。
生涯教育の一環で医師は多くの講演会や勉強会に参加する。その昔、「講師は正装なのに、聴講する医師の身だしなみがラフすぎて失礼だ。ネクタイが面倒なら、せめてスーツを着用しなさい」と諭す高齢の先生がおられた。もっともな話だが、しかし今でも会場を見渡すとあの教訓がどれくらい生きているか、怪しい。
学生時代、学内では「おい、ササキ」と呼ぶある教授は、学外では「さん」付けになる。理由を尋ねたら、内と外のケジメだとおっしゃる。教授回診でも「すみませんが、学生に腹を触らせてやって下さい」と丁重だった。胆のうを切除した患者に、「馬と鹿には生まれつき胆のうがないのです」と話したことがあった。患者が「私は馬鹿と同じになったのですか?」と問うと教授は、「実は5年前に私もなくしました」と応え、病室に笑いが広がった。
デムーロ騎手は東京競馬場の2400メートルを時速60キロ超で走り抜けた。光陰矢の如し。還暦を過ぎても先達に学ぶ事柄は多く且つ身につかぬまま馬齢を重ね、衣食足りて礼節を知る武士道も今や風前の灯。デムーロ騎手に感動するのも、残りわずかなサムライの血が騒ぐからであろうか。
デムーロ騎手(TV画面より)
TVを一緒に見てくれるわが友ジオン
青春時代からのわが友Tomoko K. OBER(パリ在住)。Tomokoの東京での展示会にて(6月7日)