ユネスコが何でもかでも遺産にし―。こんな川柳がはやるご時世だが、わが日本だけでも白神山地、平泉などが世界遺産として多数が登録されている。最初は誰もが納得できる自然景観が対象かと思っていたら、各国の複雑な思惑も絡み、文化遺産、記憶遺産など何でもありありになってきた。そのうち地上の観光地はすべて何かの遺産に登録され、遺産でない場所や物件を探すのが難しくなるかもしれない。
遺産と言えば、金銭や不動産などがたっぷりあって、遺族が相争うケースが思い浮かぶ。むろん逆もあって、あまり嬉しくない借金の場合は、遺族など関係者の人間性が問われる「負の遺産」ということになる。ユネスコの「負の遺産」に登録された「広島原爆ドーム」など誰が相続すべきか?
私が学生時代たいへんお世話になったある書店の社長は株投資に失敗し数億円の借金を残して亡くなった。業績はよかった店舗も自宅も存続が危うい。そこで卒業生有志30名は故人の恩に報いようと寄金を集め、弁護士と金融のプロらに依頼しファンド会社を創設した。そして、「ファンドが保証するから会社経営を続けさせてくれ」と取引先や銀行に働きかけ、住居と書店を奇跡的に守ることができ、間もなく10年目を迎え借金返済のめどが立ってきた。ファンド仲間には絆が生まれ、結果的に負の遺産がプラスの遺産に…と言えばかっこいいが、ともかくユネスコに登録したいような美談である。
ところで、ラグビーW杯で南アフリカを破った日本だが、快挙を激賞する欧米の報道は上から目線である。「世界遺産に登録してやる」といったユネスコの胡散臭さにも通じ、登録を目指す国々の自薦・他薦もどこか卑しい。欧州が頭を抱える難民問題だって、元々アフリカや中東を引っ掻き回してきた彼らの立派な「負の遺産」で、彼らが相続すべきであろう。
元ラグビー選手だった不眠症患者のある教授は、「ペナルティキックをあの距離と角度から軽々と決める五郎丸は、従来の日本ラグビーとは全然ちがう、日本の財産だ」とおっしゃった。祈りに似たあの独特のスタイルが財産ならば、世界遺産登録に血道をあげて観光客受けねらうより、大切なものは財産目録くらいに整理しておく方が、よほど爽やかではあるまいか。
白神山地
祈る
イラスト作者(白神にて)
男鹿半島の晩秋
秋田県立小泉潟公園「水心苑」