遅い秋田の桜が満開になるころ、当院から2軒隣のデイサービス(以下、デイ)に通うお年寄りたちが華やぐ。これが本当の“サービス”だと思うのだが、利用者たちを少人数のグループに分け、職員が交代で花見に連れて行くのである。
1番人気は桜並木と沿道の菜の花が延々と続く大潟村の「菜の花ロード」。車で30分。田植で忙しい時期に列をなす花見客の車は農家の天敵だが、ピンクと黄色に彩られ、圧巻である。また、デイから車で15分の県立小泉潟公園も職員に付き添われた高齢者でにぎわう。
デイでは大型スーパーにも連れて行く。朝、ばあさんに買い物リストを持たせてやれば自分たちの手間が省けるので嫁や娘にも好評だ。職員らの「主婦感覚」による企画と聞く。回転寿司の日もあって、これも少人数に別れて出かける。店員も慣れてきて対応がいいらしい。慰問も民謡、踊り、大正琴の演奏から、最近はベンチャーズのコピーバンドも登場する。
デイは愉快、もっと早く来ればよかったという老人は多いが、こうした「デイサービス・ライフ」を最初からすんなり楽しめる人ばかりではない。当院へ通院する83才の女性は物忘れが進んで目が離せなくなり、デイを勧めた。嫌がって渋々出かけたら、「何十年ぶりかで気の合う女学校時代の友人に会った」と喜び、デイを心待ちにするようになった。「息子は忙しくて花見どころか買い物だって誘ってくれない。デイがいいわ」埼玉の重い槍氏の川柳いわく「認知症、特効薬は家族愛」…
その点、男は情けない。女ほど社交的でもなく、ぼんやり天井を眺める姿がちらほら。ある社長は、「田舎者ばかり集まりやがって、くだらん」と職員らが誘う体操やゲームを拒否し、同じ新聞をひねもす読み返す。「食事は?」と問うと、「病院食は薬よりまずかったが、ここは悪くない。晩酌がありゃ言うことなし」とご機嫌である。病院も施設も調理法は格段に進歩した。「体を動かさないと足腰が弱ります」というと、「若い女でもいりゃね」と昔日の夢を捨てていない。この社長、若い女性の尻を触るので、「何かいい薬はありませんか」と私はいつも職員に泣きつかれる。ああはなりたくない。
大潟村「菜の花ロード」
秋田県立小泉潟公園
コミットバンド(町内のおじさまたち)
角館の桜