市広報に毎月『交番ニュース』というチラシが挟まれてくる。今月は「6月30日は犯罪被害を考える日。被害にあうと家族や遺族は心身に苦しみを受け、その傷と向き合うことになります。被害者を思いやり、その声に耳を傾けることが大事です」と書いてあった。ところが、配布されたと同じ日の地元新聞に概略、以下のような記事が載った。
2010年11月4日早朝、秋田市の弁護士Tさんが、拳銃や剪定鋏を持って自宅に侵入したS受刑者に刺殺された。妻の110番通報で警察官2人が駆け付けたが、格闘の末にSから奪った拳銃を持っていたTさんを犯人と間違えて取り押さえ、「その後」Tさんは胸を刺された。Sは離婚訴訟で元妻の弁護士だったTさんに恨みを持っていた。16年に殺人罪などで無期懲役が確定し、遺族が提訴した国家賠償請求訴訟を秋田地裁は17年に棄却。これを不服として遺族、受刑者の双方が控訴している…。
現場にいたのはTさんの妻とSと警官の計4人。「その後」の部分を県警は「刺殺された部屋はTさんを取り押さえた部屋とは別」といい、妻は「警官に羽交い絞めされたところを刺された」と話が食い違う。また、ガウン姿のTさんと作業着のSの見分けが、「駆け付けてから刺されるまでの2分25秒」では困難だったと県警は主張。判決も「秋田県は凶悪事件の発生が少なく、突発的事案に対応できるだけの訓練や意識の涵養が十分ではなかった」と県警に寛容である。遺族の心情たるや…。
T弁護士とは様々な集まりで酒を飲み、依頼人の診察を頼まれたこともあって事件に私は大きなショックを受けた。おかしな方向へ展開する裁判にもまた驚いていた。「秋田県は凶悪事件の発生が少なく」とはいえ、この事件の少し前にも市内で殺人事件があり、被害者は風邪等で当院に何度か受診歴があり、被疑者は警察の取り調べに眠れないと受診し、迷宮入りかと思われるほどの長い時を経て別の被疑者が逮捕されたのは昨年、事件発生から10数年後であった。
また、当院へ通院していた被害者のこんな事例もある。妻が職場の男と妙なことになり、気付いた男の妻が患者の妻を訴えた。患者にしてみればたまったものではないが、なんと、相手の男は患者の妻を恨み、一度ならず二度までも深夜に患者宅敷地に侵入し妻の車を傷つけた。患者は監視カメラを設置し、見張っていたある夜、現れた覆面男を捕まえようとして男が持っていたアイスピックで頸部を刺された。逃げた男はすぐ逮捕されたが、裁判所は男に対し結審まで帰宅を許す。さすがに警察も患者を心配し、「凶暴な被疑者から子供を守る必要がある」と患者家族に実家への避難を促した。そして襲撃者はつい先日「執行猶予3年・保護観察処分」となり、不安に怯える患者は今なお復職できないばかりか、子供に危害が及ばぬよう警戒を続けている。
交通事故でも犯罪でも、「応報はダメ」という法理念のためか加害者の人権が偏重され、被害者は裁判自体からも排除された揚句、待っているのは「相場」に基づく判決が多かった。「犯罪被害者等基本法」が2004年に成立し、6月30日は「犯罪被害を考える日」とはいえ、被害者救済は道半ばといった状況のようである。
石田ローズガーデン(秋田県大館市)
薔薇と蟻
ガーデンの秋田犬(あきたいぬ)
アジサイ寺(雲昌寺 男鹿市北浦)
アジサイとジヨン君
参道を包むアジサイ
空の青、海の青、アジサイの青
*写真:佐々木かなえ(千葉克介写真教室)