人の背丈の倍近い雪像の「犬っこ神社」で犬連れの家族が宮司のお祓いを受けている。ワンちゃんもじっと大人しく待っている―。2月10日、秋田県湯沢市で開催された犬っこ祭りでの光景である。400年を超えるこの伝統行事に県内外から2日間で17万人が訪れた。むろん犬連れが多く、徳川5代将軍家綱が発布した生類憐みの令の元禄時代さながらに大小さまざまな犬が会場を闊歩し、まさにワンちゃん天国。「犬っこカフェ」は10匹を超える犬と人で満杯、雪のドックランでは犬たちが思い思いに走り回っていた。
町内会でたまたま飼い犬を亡くして間もない女性3名が「もう犬は卒業。可愛いけど、犬がいた間は旅行もできなかった」と口をそろえた。テニスクラブにもそういう会員がいる。わが家でも家人は泊りがけの旅行となると、チワワのジオンを残して行けないと渋り、5年前から遠出はほとんど私一人である。あまつさえ家人は、甘やかし過ぎだという私に「ジオンは働かなくていいのです」といい、「犬も何か手に職を」という長男には「就職もさせません」と開き直るから厄介この上ない。
精神科に通う無職の若者の多くは就労を気にし、働かねば、という強い思いを持っている。引きこもりたちは、仕事を持たない自分は親に迷惑をかけていると自らを責めていることが多い。あるベテラン精神科医は、「人はみなが働く必要はない。稼ぐ人は稼ぎ、働かない人たちを養うのが本来の人間社会」と言っていたが、その通りだと思う。フィンランドでは金曜半ドンを導入する際、世の中がこれだけ便利になったのにあくせく働くのはおかしい、社会が豊かになった分、ゆとりある生活をすべきと労使で給与の減額を合意したという。
働きたくても働けない人々、私のように働きたくないのに働いている人々、大して働かないのに超高額の報酬を得ている人々など、世の中は決して平等ではない。そもそも私たちの体だって、脳にしろ筋肉にしろ普段はほとんどサボっているのである。「働かざる者は食うべからず」の逆を堂々と地で行くのはペットくらいのもので、しかもお祓いまで受けている。時おり吹雪く厳寒の2月に朝から晩まで働かされていたあの宮司さんの気持ちも私と同じではあるまいか。
宮司さんからお祓いを受ける
ジオン君もお祓いしてもらいたい?
犬っこの雪像の前で
だがやはり人気ナンバーワン!は秋田犬