アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「栃木のステキ」No.10

足尾の山に100万本の木を植えよう‐NPO法人 足尾に緑を育てる会‐

足尾銅山の煙害で荒廃した足尾の山に緑を取り戻すため、毎年4月、全国から大勢の人が植樹のために集まる。19回目となる今年の植樹デーは26、27の両日に開催され、約1600人が参加し、6500本の苗木を植えた。

NPO法人「足尾に緑を育てる会」(鈴木聡会長)による植樹活動には、これまで13万を超える人たちが参加し16万本の苗木が植えられたが、緑が蘇ったエリアは禿げ山になった2500ヘクタールの1割に過ぎない。足尾の山を再生するためには、これから少なくとも100年はかかるという。足尾に緑を育てる会の壮大で、息の長い活動が続く。

過酷な植樹地に官民協働で植樹

渡良瀬川の源流に位置する松木沢地区。煙害で荒廃したこの地に、足尾出身の故神山英昭さんが鈴木さんら有志を集めて桜の木を10本植えたことが、緑を育てる会発足のきっかけだった。「桜はすぐに枯れてしまった。そのとき、森林植生の専門である宇都宮大学の先生に相談すると、『この場所を緑にしたいのか。それとも、単に桜のお花見をしたいのか』と言われた。私たちは、何とか緑豊かな森に戻したいという気持ちが強かったので、足尾の人間だけではなく、渡良瀬川下流域の人たちにも一緒にやろうと呼びかけたのが始まりです」と鈴木会長。1996年5月、渡良瀬川流域の市民活動グループ(わたらせ川協会・渡良瀬川研究会・田中正造大学・渡良瀬川にサケを放す会・足尾ネーチャーライフ)が集まり、神山さんを初代会長に足尾に緑を育てる会を結成し植樹活動を開始した。

第1回の植樹デーには160人ほどが参加し、100本の苗木を植えた。ところがシカの食害で、ほとんどの苗木がだめになってしまったという。それを教訓に、シカ食害防止柵を設置し、被害を防いでいる。

「日本で、これほど過酷な植樹地はない。煙害で土壌が酸性の強い土に変ってしまった。新しい土を入れないと苗を植えても成長せずに枯れてしまう。他の植樹地とは条件がまったく違う。植樹地は、国、栃木県による山腹基礎工事で新しい土が入れられ、そこに我々ボランティアが植樹する。官民が一緒になって取り組む植樹活動は全国的にも珍しいと思います」と鈴木会長は言う。

「心に木を植える」。立松和平さんが遺した言葉

緑を育てる会発足時からのメンバーである石川栄介さん(「足尾に緑を育てる会」理事)は「1回目の植樹デーの参加者は100人そこそこでしたが、それでも大成功と思ったものです。それが、いまでは1600人もの人が参加してくれます。植樹場所までの道路は車で渋滞し、駐車スペースも足りないということで、2日間にわたって植樹をするようになった。嬉しい悲鳴です。これほどまで参加者が増えたのにはいろんな要因があると思いますが、『自分たちの手で緑を取り戻す、森を再生するんだ』というところに共感を得られたのでは。自然保護を考えるシンポジウムや講演会はありましたが、『私も一本、苗木を植えよう』というような実際に自分たちで植樹するという活動はあまりなかった。そんなところが受け入れられたのではないでしょうか。あとは、立松和平さんの存在が大きかった。立松さんは、毎年、春の植樹デーに参加していましたし、“広告塔”として会の活動をいろいろな方面に伝えてくれました」と話す。

鈴木会長も、立松さんについて語っている。「立松さんは、ただ山に木を植えるだけではなく、心にも木を植えてください、ということをよく言ってました。心に植えることが、次につながるということなんですね。一回だけで終わるのではなく、また来年も植樹に来てみよう、少しでも自分の力を自然の回復に役立てたいという思いは、心に植えることで育まれる。作家らしいすばらしい言葉です。事あるごとに、その言葉を引用させてもらっています。大事な思いです」

次世代に託す「足尾の再生」

春の植樹デー、夏の草刈りデー、秋の観察デー。そして、年間150団体が参加する体験植樹。年々、子どもたちの参加が増えているという。

鈴木会長は「子どもたちに自然の大切さ、自然を破壊したら大変なんだってことを勉強してもらう。私たちの活動の真の目的はそこにある。子どもにわかってもらえないと、この活動は続かない。いまの大人だけで終わってしまう。きょう(春の植樹デー)も若い人が多かった。頼もしい。私たちの思い、願いが徐々に広がっている。それが私たちのやりがいにもつながっている。この活動が継承されていくことを願っています。立松さんも、神山さんも、その思いが強かったですね」と話している。

「足尾に緑を育てる会」会長 鈴木聡さん

「足尾に緑を育てる会」理事 石川栄介さん

植樹デーの開会式で挨拶する鈴木会長

植樹デー開会式

県内の高校から参加した生徒たちによる植樹の様子

植樹をするために山に登る参加者

旧松木沢地区

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