アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「栃木のステキ」No.19

画家 大根田 真

栃木県宇都宮市の百貨店で開催された個展(2017年7月13-18日)会場に、画家、大根田真氏を訪ねた。会場には、美しく力強い馬の絵やバレリーナをモチーフにした繊細な光の絵が展示されていた。何故馬の絵を?と問うと「画家としてスタートしたときに僕を育ててくれた画商さんが馬の絵が一番難しいとおっしゃった。だからこそ挑戦したいと思ったのです。筋肉美というか描きがいがあるモチーフだと思います」

また、氏の作品は音楽的なタイトルが多くある。「ピアニストとコラボした絵画コンサートなどを開催したり、音楽家やバレリーナを描いて応援しています」と、分野の異なるアーティストも同じ目線で共感している。そんな大根田氏の話を会場で伺うことができた。

大根田真氏「自画像」

スポーツから法則を見いだす

「中学の成績で一番美術が悪かったんです。なかなか私の絵は認められず美術から離れていましたね。大学(教育学部美術科)でも私のポリシーに反するので、その後は描くことをやめた経緯もあります」と国立大学の美術科を卒業している大根田氏から意外なエピソードが飛び出してきた。少年時代野球をやっていた頃「先輩が威張っていて押し付けられるのが嫌」であった。チームも弱く、それをまた下の代で先輩と同じようにやって悪循環となるが、美術の教育も似ているという。

「教師になってスポーツ(女子ソフトボール部)を監督し、チームを全国大会出場に導き、関東大会を連覇したときのエースは、シドニーオリンピックの準決勝、決勝の先発マウンドに立ちました。スポーツから、こうすると短期間で夢が叶うという法則を見出し、それを自分自身に置き換え、自分の夢を実現する努力をしました」

自分がしたいことは何かと自問自答した結果、「画家になりたい」という答えであった。一度挫折しあきらめていた「画家」であったが、「スポーツでゼロの状態からこんな風に夢が叶うのであれば、その法則を応用すれば画家になることだってできるんじゃないかと思いました」。夢に向かって独学で美術を再スタートしたのは30歳を過ぎてからであったという。

「絵を見た人がエネルギーとかストーリーとかメッセージとかを何か感じる、そういったものが本来の絵が果たすべき役割なのではないかと考えています。例えばスポーツで子どもたちに優勝を目指してがんばろうというときは、自分がやって見せる。それを見て子どもたちもやる気になって、劇的に短期間で弱小チームが強くなっていった。それと同じように、まずは自分が考えを絵に表す。そこから子どもたちは美術ってこういうものだって感じてくれるのです」

馬をモチーフにした絵(展示会場にて)

馬をモチーフにした絵(展示会場にて)

バレリーナの絵(展示会場にて)

色彩と光の世界(展示会場にて)

美術は「それぞれ個性の良さがあっていい」と言える唯一の教科

プロを経験しないと美術教師はだめだと思うときっぱりと話す。「自己満足の芸術はだめで『見せてなんぼ』と思います。見る側が素敵だと思うものを描くことが大事ですから、見た人がどう思うか、プロのアーティストとして活動する側として常にそれを考えます」 

教師側がそういった視点から子どもたちに描かせると、もっと子どもたちは表現するという。子どもたちの作品をなるべく発表してあげるのが教師の役割とも話す。

「昔の僕のあだ名は絵飾り職人でした。いつも美術室に子どもたちの絵を飾っていた。美術教師に大切なのは子供たちの作品を飾ってあげることでもあります。横浜で教師をやっていたときは放課後になると生徒たちは自分たちの飾られた絵を見に来ていて、『誰ちゃんの絵がすごい、先輩の絵がすごい』などと感想を述べあう。飾られて、誉められて、良い循環が生まれていました。美術の授業は『それぞれ個性の良さがあっていい』と言える唯一の教科だと思います。デッサンなど同じものを描かせるのではなくて、人と違う発想と色彩で、並べたときに目立つこと、はみ出すことこそが美術ですから」

本来、子どもたちは絵を描くことが大好きなはずなのに、押しつけの美術の教師と出会ってしまうことで絵が嫌いになってしまう子どもたちが多いことを危惧していた。

「プロの作品には形がなんだか分からなかったりいろいろあります。デッサンが出来ればいわゆる組織に雇用されるかもしれませんが、自由課題に石膏像しか描けない学生もいます。きちんとしすぎることが日本人は好きですが、そこにアートはないと思う」

『小さな美術館』表紙

色彩のソムリエ

「私の代の野球部のキャプテンはすごく立派で、『自分たちは先輩と逆のやり方でやろう』と心掛けて強くなったのです。先輩が威張らないでのびのびと1年生から練習して3年間で十分上手くなれます。美術界も変えていかなきゃいけない。パリの写真を見て憧れて想像で描いたっていいわけです。写真を見て描いちゃダメ、黒を使っちゃダメ、ダメなものが多すぎる。あえて黒を使った藤田嗣治みたいに日本の美術を解放すべきです。

僕はスポーツの世界でとことん戦ってきて、一度負けたら終わりというトーナメントで何度も優勝しました。それに比べたら美術界は甘いかな?監督としてオリンピック選手を育てて画家になった人はいないでしょうね、その自負のもとに他の画家と違うファイティングポーズをとりながら描いていきます」

大根田氏の絵を見たある人が「色彩のソムリエ」と称した。「嬉しかったですね。ソムリエのように色の組み合わせをお伝えすることと光を意識しています。もちろん写実も描けますが、光と色彩があれば形なんてどうでもいいと思っています。形を追わずに色を追えば実は形になるのです」

2004年にはカンヌ国際芸術賞にてコートダジュール国際芸術賞受賞。2007年には日伊芸術驚異と美の饗宴にてメラヴィリア国際賞受賞など、海外での評価が高い。2016年、洋画家・大根田真の物語画集『小さな美術館』出版(リーブル出版)し注目を集める。

大根田 真(おおねた まこと)

大根田 真(おおねた まこと)

国立大学教育学部卒業後、美術教師となる。女子ソフトボール部監督として関東大会優勝2回、県大会優勝6回。画家活動を始めてからは横浜・聖ヨゼフ学園中学校高等学校美術教師を兼務、2004年より画家活動に専念。カンヌ国際芸術祭2004にてコート・ダジュール国際芸術賞、日伊芸術驚異と美の饗宴にてメラヴィリア国際賞受賞。2016年に物語画集『小さな美術館』出版、日本人には珍しい色彩豊かな表現から《色彩のソムリエ》と呼ばれる。

洋画家・大根田真の『小さな美術館』

http://m-ohneta.com/