お役にたち、少しでも永くご愛用していただく
私が伝統ある「下野手仕事会」に入会させていただき、たくさんの方々とお知り合いになることができ、多くの学びや、気づき、なにより手仕事会の皆さまの前向きな姿勢に、深い感銘を受けました。皆さまから授かった知恵や熱意は、毎日の仕事に生かされております。
私は、茂木町で刃物鍛冶をしていますが、先々代までは、烏山でのこぎり鍛冶屋を営んでおりました。祖父が、「中屋久作」という屋号で、今の場所に開業し、はや80年が過ぎようとしています。これも諸先輩方のご指導ならびに、お客さまのご愛顧の賜物と深く感謝いたしております。
開業以来、一貫して心に刻んでおりますことに、「毎日使ってもらう道具だから、お客さまが安全で使いやすいように、心をこめて造る。そして売るだけではなく、責任を持って最後まで面倒をみる」という思いがあります。
時代が移り、手打ちの包丁がステンレスに、また、手打ちのノコが替刃ノコやチェンソーに代わりましても、「刃」のつくものは何でも造り、「刃」のつくものの「手入れ」は、何であっても面倒みさせていただいております。
私たちの製造しております「刃物」には、日本が世界に誇る「ヤスキハガネ」を使用しております。ステンレスとは違い、「手入れ」が行き届かないと、錆びやすいという欠点はございますが、鋭く研ぎあげることができる上に、粘り強く、硬いため、「長切れ」する「刃物」を造ることができます。
切れる「刃物」を使うと、余分な力が必要ないので、ケガも少なく、作業も楽になります。また、きれいな切断面になることによって、仕上げの手間が省けます。料理などの場合には、調理素材の鮮度が保て、味もよくなるといわれます。
先にも書きましたが、私たちが造り出した刃物たちが、少しでもお客さまのお役に立ち、また永くご愛用していただけるということ、それこそが私たちの一番の願いでございます。
そのためにこれからも日々精進してまいりますので、ご愛用、そして指導、ご鞭捷のほど、よろしくお願い申し上げます。
(文:関根 良一/下野手仕事会40周年記念誌『下野手仕事会四十年之軌跡』P52-53より)