着る人を引き立たせる結城紬
結城紬の織り手として2012年(平成24年)に栃木県伝統工芸士認定された須藤伸子(すとう のぶこ)さん。現在、30以上ある結城紬の制作行程のうち糸を織機にかけるまでの「下ごしらえ」と呼ばれる作業を中心に織り手として結城紬を製作している。結城紬は、真綿を手でつむぎ、文様をつけたものを地機(じばた)で織る織物である。今回結城紬の魅力や現状について話を伺った。
須藤伸子さん
制作工程のすべてが手作業
結城紬には様々な製作行程があります。今、私が主に担当しているのは糸を織機にかけるまでの「下ごしらえ」という作業です。40年ほど前に始めました。
真綿を糸取りしてくれる方に渡して、糸をつむいでもらいます。織元は普通、糸屋さんから糸を買うのですが、私は、糸の取り手を何人か抱えていまして、その方に真綿を渡しています。
次にこれも外注で糸を一定の長さに束ねる“綛あげ(かせあげ)”を行い、問屋さんの図案に応じて、職人が柄をくくったり、直接染色法(擦り込み)を施したりして柄を作ります。その後、問屋さんの要望に応じて染色をしてもらいます。それぞれ分担作業です。
この状態になってから私の作業が始まります。この段階の糸は柔らかいので、何度も“糊付け”をし、糸を固くしていきます。糸を管に巻き、一反分に糸に“整経(機延べ)”をして長さと本数を揃えます。次に、緒巻と呼ばれる経糸(織る際タテになる糸)を巻く道具に、経糸を巻いていきます。これは“機巻き”と呼ばれる作業です。その後、“前結び”という作業で、織りだしの部分を数本に分け玉結びをします。そして、下糸を持ち上げるために糸をかける“かけ糸掛け”を施し、織り始めに白い太い糸で織る“カシャゲ”をし、織りが出来る状態にして、織り子さんに渡すのが私の下ごしらえの仕事です。
手つむぎ糸と原始的な織機が独特の風合いを生み出す
軽くて長く着ると体に合ってくるのが結城紬の特徴です。纏わりつくように着付けが出来るので着崩れしにくいです。真綿から手で紡ぎ出した糸を、地機(じばた)という原始的な織機で織り上げる結城紬は独特の風合いがあります。着れば着るほど、何回も洗い張りをすると、表面がすれて鈍い光沢が出てきます。華美でなく、結城紬は着る人を引き立たせます。
私のところで作る結城紬は薄地が主流です。着物の色が薄いので薄地と言います。直接染料を摺りこんで柄をつけます。
括りで柄をつける着物は色が濃いものが多く、店で着物を飾った時に全体的に暗い印象になりますが、色の薄い薄地の着物が入ると印象が変わってきます。薄地があったからこそ、結城紬は続いてきたという人もいます。今はきれいな色が主流で、たまに蛍光色のようなビックリする色もあります。
きれいなものが出来れば買う人も喜んでくれる
私が結城紬の仕事を始めたのは22歳のときでした。元々、家が織元だったことがきっかけです。小さい頃から親たちが仕事をしている様子を見てきました。最初はあまり良い仕事だとは思えず、別の仕事に就くつもりでした。でも、女性でも子育てしながらできる仕事ですし、他に特技があったわけではなかったので、すんなり、この仕事を受け入れました。
今から50年ほど前が結城紬の全盛期でした。その頃は私の家にも住み込みの織り子さんがいました。両親が亡くなって、家業を切り盛りするのが私一人になってからは、織りから下ごしらえが私のメインの仕事になりました。
今60代後半ですが、正直後継者を作るのは難しいと感じています。着物離れが一番の大きな理由だと考えています。ですが受け継がれていかなければ、本当に終わってしまうのも事実です。
結城紬を欲しいという人はいます。ただ他の着物に比べて高いのです。一反作るのに7か8ボッチ(1ボッチ=真綿50枚分の糸)が必要になります。糸の原料費だけで仕立て上がりのちょっとした着物が買えてしまいます。それから何人もの職人たちの手作業を経て仕上げますので高価なものになってしまいます。着ればとても良い着物だということはすぐに分かるですが。
私自身は織り手が織りやすいものを作るようにしています。糊付け一つで織りやすさが随分変わってきます。繭や糸の取り手によっても糊の吸収度が毎回変わってくるので、昔から一生勉強って言われています。織り手が織りやすいものを作ればきれいなものが出来ます。きれいなものが出来れば買う人も喜んでくれますから。