「紅型」と「バイブル」
田口恵さんは6月14日から21日まで宇都宮市内のギャラリー「ファミーユ」で「こてんとこてんがら展」(※1)として紅型(びんがた)作品展を開催、約20点の作品を展示する予定である。
田口さんは広島市立大学芸術学部で彫刻を学び、卒業後も横浜の芸術家養成校や近畿大学附属のアートスクールで研鑽。結婚後沖縄に約6年在住していたが、その間、人生を大きく変える出会いがあった。沖縄の伝統文化「紅型」と「バイブル」であった。
「紅型の体験教室に義母の誘いで参加したのが紅型との出会いです。義母は途中で止めましたが、私は紅型を作る楽しさにどんどんはまっていったのです」
紅型の魅力を語る田口さん
型彫りした牡丹、聖書のことば、小刀
田口さんは金武町にある「前田紅型工房」で、型作り、配色、道具の使い方などを学んだ。学生時代に彫刻を専攻していた田口さんは、紅型の数ある工程の中で、特に「型彫り」が好きだという。「彫ったり削ったりする作業を長くしていたので、型彫りの細かい作業は苦になりません」。型を彫るための小刀(シーグ)は近所のオジイに作ってもらった。
戦後の何もない沖縄で、手に入る物を道具に作り直すことで復興した紅型。沖縄の古くからある工房では今でも、米軍兵のパラシュートや薬莢で作った道具を使用しているという。型を彫るシーグも、店には売っていないので、多くの紅型作家が手作りのシーグで型を彫っている。
「そのシーグがどうしても欲しくて、近くに住んでいたオジイに相談したら、『こんなもん、昔から自分たちで作って遊んでいたさー』と、その場で鋸の刃を加工してあっという間に作ってくれました」オジイ手作りの小刀は、ずっと大切に研ぎながら、感謝の気持ちを込めて使っている。
紅型とバイブルの出会いの作品と
沖縄の海と帆をあしらった古典柄を説明する
紅型「ボタンとおながどり」古典柄に王朝色の黄色を背景に
在沖当時、長女の通う教会附属保育園の学童保育に携わっていた。「子どもたちに、園のマークがついた紅型を持たせて卒園させたい」という気持ちが自然に湧いてきて、卒園制作には紅型を体験させることにした。
そんな時、子どもの幼稚園を通して出会ったのが「バイブル」であった。しかし、沖縄の伝統文化である紅型には、聖書のことばが書かれたものがないことに気づいた。「それなら自分で作ればいい」と思い立ち、園長と牧師に「主の祈り」の「うちなー口(琉球語)」を教えてもらいながら、紅型の古典柄に合わせて作品にした。
保育園を併設するその教会には、「うちなー口の主の祈り」が入った紅型の作品を贈ることもできた。「自分では、とても満足とはいえない作品でしたが、大変喜んでいただき嬉しかったです。牧師さんの紹介で水俣の教会からも注文をいただきました」
紅型とバイブル「主の祈り(うちなー口)」
紅型とバイブル(うちなー口)
田口さんの個展会場では作品とともに、型彫りした型紙や小刀なども展示する予定である。「訪れる人たちに紅型の出来上がるまでの工程も知っていただき、紅型により興味をもっていただければと思っています。紅型はとても奥が深く、私の腕はまだまだ未熟ですので、教えて下さった先生に恥ずかしいくらいです」と謙遜の言葉も。
しかし、型は細部にわたってしっかりと彫られ、夢のように鮮やかな色彩で、琉球王朝の古典柄が復元されている。聖書のことばも一文字一文字「うちなー口」やドイツ語などで語りかけるように刻まれ、配置されている。彫刻を学び、手作りのシーグを与えられ、紅型とバイブルのアート作品となった。
会場では、「ルクジュウ」という豆腐からできた下敷きを型彫りに使用するなど、あまり知られていない紅型の作り方も聞ける予定である。
※1個展「こてんとこてんがら展」 アトリエぱんとさかな 田口 恵 ~どこかで聞いた古典のことばと、沖縄の紅型がであいました~
会期:6月14日(金)~21日(金)10:00~17:00
会場:ギャラリー・ファミーユ 宇都宮市中央3-10-11 TEL:080-5541-8404
*会期中作家は金、土、日には在廊しています。