二〇二一年は、足尾鉱毒事件にまつわる記念すべき年と伝え聞いた。佐呂間移住から一一〇年、田中正造の直訴から一二〇年、正造生誕一八〇年だという。本書は一昨年に構想を開始したが、昨年末までそれらに符合することは知らなかった。その記念的な年に上梓できる奇縁は不思議でならない。
また「『鉱毒悲歌』制作委員会」の皆さまに会う機会に恵まれるたび、活動を推進する源がなんなのか、これも不思議でならなかった。
しあわせの四つのタネとは、人に愛されること、ほめられること、役に立つこと、必要とされること。これは下野新聞「雷鳴抄」(二〇二一年三月一三日付)の記述である。幼児から高齢者までどなたにも有効なこのタネは、人を豊かにし、その分だけ明日も精一杯生きようとさせる。もしかしたら愛猫愛犬だってそうかもしれない。慈しみの言葉も、正当評価も拒むのは偏屈者だけだろう。受けた返礼に、人知れず役に立てればと考え巡らせれば、なにかが起こる。
これだ! 社会に必要とされ、誰かの役に立てることとは待っていては実現できない。能動的にかかわる行動力は、じつのところ自身のしあわせに向かうプランの一つなのだ。ここに「『鉱毒悲歌』制作委員会」を率いる谷博之氏や関係者、あるいは次世代の若い方々が寸暇を費やして会を存続させている原点を視た。そして自身を振り返れば、彼らの行動で示されたメッセージによって擱筆できたしあわせをも思う。(「あとがき」より)
書籍情報
・書籍名:二度あきらめなかった映画――ドキュメンタリー『鉱毒悲歌』制作ヒストリー
・石下 典子 著
・発行所:アートセンターサカモト
・〒320-0012 栃木県宇都宮市山本1-7-17
・TEL:028-621-7006 Fax:028-621-7083
・価格:本体1,100円(税込み)
・ISBN 978-4-901165-23-5