沖縄本島で一番小さい町、与那原町から届いた色鮮やかな魚の物語。
なばるまじくは、一本の長い尾びれを持ったマダイの仲間。
この魚には、広くは知られていないが、町に伝わる美しくて悲しい伝説があります。
沖縄を琉球王国といい、神に祈りをささげる祝女(ノロ)という女性が活躍していた時代の物語。人々を守る力があり、気持ちも姿もとても美しいという評判の祝女、聞得大君(きこえおおきみ)はあるとき、ひどい嵐に遭い、船は薩摩国(今の鹿児島県)の浜まで流されてしまいました。そこで命を助け、看病してくれた木こりの男を愛するようになり、やがて2人の間にかわいい子どもも生まれ、聞得大君は幸せな日々を送っていました。
そのころ、琉球王国では長い日照りに人々が苦しめられていました。
王国を守ってきた聞得大君を連れ戻さねばならない。迎えの祝女たちを乗せた船が薩摩にたどり着き、琉球王国の人々が苦しんでいることを知った聞得大君は、愛する夫との別れを悲しみながらも、琉球に戻ることを決断します。だが、帰りの船で「さつまの男との子をつれてかえることはぜったいにできない」と告げられてしまいます。
舩谷香さんは、あとがき(「この本に添えて」)の中でこう書いています。
〈男女の許されない恋、きれいでかなしい愛、せつない思い、我が子を連れて帰れなかった胸の痛み、母の思い、さまざまな気持ちが入り混じって、何とも言えない心情になりました。救われたのは、「化身」としてのまじくが、今でもこの海に生き続けているということ。三津武獄に手を合わせたくなるこの気持ちを、この絵本を通して共有できたらとてもとても嬉しいです。〉(抜粋)
三津武獄(みちんだき)は聞得大君が住み暮らした小高い丘の上に建てられた墓。聞得大君は、この丘の上から与那原の浜を眺めているのでしょう。浜には今も、よなばるまじくが泳いでいるからです。
栃木にも、病の流行から人々を救う「黄ぶな」の物語があります。魚に込められた人々の願いに、少し共通することがあるのかもしれません。
書籍情報
・書籍名:よなばるまじくものがたり
・文 舩谷 香
・絵 上田 真弓
・発行所:よなばる商店株式会社
・〒901-1303 沖縄県与那原町与那原451
・連絡先:沖縄子育て良品株式会社
TEL:098-996-2550 FAX:098-996-2560
・価格:本体1,980円(税込み)