アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「とっておきの一冊」No.4

『こだまを抱いて~白樺とキジバトの物語~』

今、私の手元に少し古い手帳が、何冊かあります。日記を付けない私は、小さな手帳にかなり細かなことも書き入れます。

その中の一冊、二〇一一年の手帳の三月のページをめくってみましよう。

「十三日キジバトのヒナ、羽化」と書かれています。二月のページでは、「二十八日 キジバトの卵」と記されていました。

つまり、二月の末に卵で産まれたキジバトが、約二週間後に無事卵のカラを破って出てきた、ということです。

さらに手帳をみると、「三月二十八日キジバト、巣立ち!」と記入されていました。実はこれが実際の我が家において、初めてキジバトの巣立ちに成功した記録です。

子育てというのは、人間でも野生の鳥たちでも、その苦労は同じものだと思います。そしてやがて訪れる子離れ(巣立ち)の淋しさとうれしさも……。

大自然というのは、本当に過酷でいろいろな試練を私たち人間や生き物たちに与えます。けれど、それ以上の大らかな優しさで包んでくれるものでもあります。

私たち人間は、そんな大自然の優しさと厳しさを噛みしめながら、一本の木々や草たちと同じように生きていくものだと思います。そしてそうするためには、常に「孤独」という一つの丸い玉のようなものを抱き続ける強さも必要なのだと思うのです。

二〇一三年十二月   水樹涼子

(「あとがき」より抜粋)


書籍情報

・書籍名:『こだまを抱いて~白樺とキジバトの物語~』

・作:水樹涼子 画:山中 桃子

・発行所:有限会社 アートセンターサカモト 栃木文化社・ビオス編集室

 〒320-0012 栃木県宇都宮市山本 1-7-17

 TEL 028(621)7006 FAX 028(621)7083

・価格:本体1,800円+税

・発行日:2014年3月1日

・ISBN 978-4-901165-07-5 C8093

水樹 涼子(みずき りょうこ)

栃木県鹿沼市出身、下野市在住。東京女子大学文理学部日本文学科卒業、日本ペンクラブ会員。小説『花巡り』にて栃木県芸術祭文芸賞受賞、同県文化奨励賞を受賞。栃木県「とちぎ未来大使」他、歴任。現在、NHK文化センター創作講座講師、獨協医科大学非常勤講師等、文章創作指導にも力を入れている。

主な出版物

『岸辺に生う 人間・田中正造の生と死』 『思川恋歌』『聖なる衝動 小説 日光開山勝道上人』 『月王伝説』『とちぎ綾織り 下野の歴史と伝説を訪ねて』『雪王の元へ』、音楽劇台本『古代史ファンタジー 虹のかけ橋』(2005年上演)、演劇台本『天地と共に~田中正造を生きる』(2013年上演)、作詞を手がけた校歌、合唱曲等多数

山中 桃子(やまなか ももこ)

1977年、栃木県宇都宮市に生まれる。女子美術大学デザイン科卒。99年、父・立松和平作『黄ぶな物語』の絵を担当。99年~2000年、「現代演劇ポスターコレクション」入選。第19回、21回「プラティスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ」入選。05年、東京新宿区の観音庵本堂の天井画を描く。08年、映画『ぐるりのこと。』(橋口亮輔監督)で、天井画に原画を提供。都内ギャラリーにて年数回作品を発表。

主な出版物

絵:『黄ぶな物語』『酪農家族1.2.3.』『街のいのち』『川のいのち』『風になったヤギ』『桃の花』他多数

作・絵:『おばあちゃんのくりきんとん』『アユルものがたり―那須のくにのおはなし―』