今、私の手元に少し古い手帳が、何冊かあります。日記を付けない私は、小さな手帳にかなり細かなことも書き入れます。
その中の一冊、二〇一一年の手帳の三月のページをめくってみましよう。
「十三日キジバトのヒナ、羽化」と書かれています。二月のページでは、「二十八日 キジバトの卵」と記されていました。
つまり、二月の末に卵で産まれたキジバトが、約二週間後に無事卵のカラを破って出てきた、ということです。
さらに手帳をみると、「三月二十八日キジバト、巣立ち!」と記入されていました。実はこれが実際の我が家において、初めてキジバトの巣立ちに成功した記録です。
子育てというのは、人間でも野生の鳥たちでも、その苦労は同じものだと思います。そしてやがて訪れる子離れ(巣立ち)の淋しさとうれしさも……。
大自然というのは、本当に過酷でいろいろな試練を私たち人間や生き物たちに与えます。けれど、それ以上の大らかな優しさで包んでくれるものでもあります。
私たち人間は、そんな大自然の優しさと厳しさを噛みしめながら、一本の木々や草たちと同じように生きていくものだと思います。そしてそうするためには、常に「孤独」という一つの丸い玉のようなものを抱き続ける強さも必要なのだと思うのです。
二〇一三年十二月 水樹涼子
(「あとがき」より抜粋)
書籍情報
・書籍名:『こだまを抱いて~白樺とキジバトの物語~』
・作:水樹涼子 画:山中 桃子
・発行所:有限会社 アートセンターサカモト 栃木文化社・ビオス編集室
〒320-0012 栃木県宇都宮市山本 1-7-17
TEL 028(621)7006 FAX 028(621)7083
・価格:本体1,800円+税
・発行日:2014年3月1日
・ISBN 978-4-901165-07-5 C8093