音楽のある家庭環境からやがて「劇団四季」へ
「気がついたらピアノを習っていました。4歳頃からかな?父が国立音楽大学声楽科、母が宇都宮短期大学ピアノ科の出身ですので、音楽の環境はすでにつくられていました。父が歌の生徒さんを家に呼んでレッスンしていたのを見て、歌って面白そうだなって子どもながらに感じていました。実際にレッスンを受けたのは中学生くらいからです。ピアノはたくさん練習しなければ上手にならないし大変すぎて……。歌を習うからピアノはもういいかなって。ピアノを止めるための代替案が成功しました。音楽以外の道を選ぶという気はなかったですね」
面白そうに笑いながら語るミュージカル女優沼尾みゆきさん。宇都宮短期大学附属高校の音楽科声楽専攻に進み、一浪して東京藝術大学音楽学部声楽科に進学。「歌は、練習すればしただけ技術が身に付く。それを人前で披露するのが楽しかった」と学生時代を振り返る。
大学卒業後、二期会オペラスタジオを経て1998年「四季劇場開場記念オーディション」に合格し、劇団四季に入団。難関を突破して入団したが、宇都宮時代はミュージカルを見たこともなかったと話す。
「大学時代に親戚のおじさんが『チケットあるから見に行こうよ』と連れて行ってくれたり、大学時代の歌の恩師・平野忠彦先生が『アニー』に出演していて、楽屋に呼んでくれたり袖中を見学させてくれたりしました。東京に行ってから急にミュージカルに触れる機会が多かったので、『これは面白い、やってみたい』と思いました」
当時劇団四季の創設者の一人である浅利慶太氏が『藝大生は声がいいから』という理由で藝大生を良く採用していた。「その情報も聞いたので、オーディションを受けてみようと思いました。今はわかりませんが、当時オーディションでは書類が1000通くらい送られて来ました。その後200人くらいに絞られて、そこから一次審査、二次審査があり、最終的に合格するのが60~70人くらいでした」
「劇団四季」でヒロイン役を射止める
演技は「劇団四季」に入ってからレッスンで磨いた。しかし、入団してすぐに踊りも芝居も歌でさえクラシックとは全く異なるミュージカルの舞台に戸惑う。
「クラシックは体を使って響かせていかに朗々と歌うかが要求されますが、『声を響かせる声自慢大会はいらない。ストーリーを運んでいくことが一番大事なので、言葉をしっかりはっきりと聞かせないといけない。だからしゃべるように歌いなさい』と言われました。最初は全然できませんでした。発声も全然違う。腹式呼吸で体で歌うのは大前提なんですが、今までやっていたクラシック唱法と日本語をどれだけクリアに聞かせるかは全然違うことだった。できなくてできなくて、本当に苦労しました」
「仕事するようになってからは、歌に対する取り組み方や感覚が学生時代とは全く違います。細かいところまで神経を使いますし緊張も凄くする。仕事をするという事はなんでもそうですが、楽しくて勉強していた時とは別のことです」
ヒロイン役をやるようになるまで時間もかかったという。「もともと不器用なんです。何をやるにも遅いんですけど、やっと少し突破口が見えたかなというところまでいくのに、入団してから4~5年くらいかかりました」。
「それぞれのキャラクターが全然違います。どの作品も、性格も違うし歌の難易度も違います。上手な女優さんは、体の中身をそのままそっくり取り替えてるんじゃないかというくらい、役によって全然別人に見えます。そこを目指さなければと思います。例えば、はかない役は得意じゃないからと言って、好きな様に演じてしまうと、お話として成立しなくなります。自分に近いキャラクターがあってもやはり自分とは違います。だいぶしごかれました。『昨日よりちょっとよくなった、よしもうちょっと頑張ろう』みたいな感じで、どこかの体育大学じゃないかってくらい毎日朝から晩までしごかれました」
博多港発着にっぽん丸で航く、秋の彩りと実り豊かな日本周遊クルーズ「亜細亜海道スペシャルコンサート」
「中嶋朋子が誘う音楽劇紀行第四夜 ロマン派オペラⅡ~フランス&ドイツ・オペラ バロック・オペラからミュージカルへ~音楽劇の歴史を追う」 Hakuju Hall
李涛&沼尾みゆき「Special Christmas Time」
「I Love Musical ~precious time music~」 撮影:田中亜紀
テレビ東京系「THEカラオケ★バトル」出演時
娘を出産して役への変化が
「父親は音楽で仕事をして舞台に立てるのを喜んでます。母親は私の健康状態をとても心配してくれています。5歳下の妹はミュージカル好きなのでよく見に来てくれました」
体調が思わしくなく、13年いた「劇団四季」を退団。しかし音楽に生きる思いは変わらない。「退団後も、コンサートや音楽劇など、やれることは何でもチャレンジしてみようと思ってました。小さな劇場の音楽劇に出演したのですが、『劇団四季』の持っている作品と全然違うタイプのものをやれるようになってきました。『こんな作品もあるんだ』というものにも出会えて面白いですね」
昨年女児を出産。今1歳となった娘に夢中のようだ。「子どもに対する接し方みたいなのもずいぶん勉強させてもらいました。ミュージカル『ひめゆり』に出演しますが、前回出演した時と娘を生んだ今では、女の子たちに対する愛情のかけ方が違うんですね。前回はがむしゃらに学徒たちを守って指導してというのに必死でしたが、そこにちょっと柔軟さが加わったらいいかなと思っています。以前、子どもと出るミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のマリア役で出演したことがありますが、6歳くらいの女の子も出演していました。今だったら子どもたちに対する接し方も違うんじゃないかと思いますね」と、娘の話に触れるとミュージカル女優から優しいママの笑顔に変わる。
しかし、「役作りの心構え」を伺うと、「演出家の求めるキャラクターは決まっていますのでそこに近づけるように、自分を持っていくよう努力します。そこから離れると台本どおりにしていても与えられた役と違ってしまい、お客さんにとってもストレスになります。それは与えられた役を演じていない。演出家にはこだわりがあるので守らなきゃいけないし守るべきです。『自分はそう思わない』と言って自分で解釈して役をやる人は、どんな役をやってもその人が出て、何をやっても同じに見えてしまう。それではだめ」と自らにも手厳しい。
「娘が生まれて、これまでいろいろ経験したことを生かして、今の歳になってやっと出せる雰囲気とか味とか、そういうのが出せる歌、そして役ができたらいいなと思っています。若い時は力で押し切る事が多いと思いますが、そういう若い人たちを見守るポジションに立っていられたらと思っています」
癒される故郷「とちぎ未来大使」として
生まれ故郷は栃木県宇都宮市の郊外。「いわゆる辺鄙なところでした。周りが田んぼと山しかありません。学校に通学するとき、前を野生動物が横切ったりするくらい。ピザの配達の圏外だったり、コンビニにも車で行かないといけないくらいでした。子どもの頃は、早く東京に行きたいと思っていました、ただずっと都会にいると、故郷はやはりいいですね。癒されます。月に一回栃木の農家さんから野菜を送ってもらっています」と、一段と穏やかな笑顔で話した。
この日、取材場所に宇都宮短期大学の一室をお借りした。母校に帰った沼尾さんを温かく迎えた須賀英之学長。
「現在理事長の父が学長だったときの卒業生が、地元に帰ってきて演奏活動を行い、学生に授業を通して音楽を教えてくれる。そういう意味では卒業生のさまざまな活躍は私たちにとって誇りです。沼尾さんの妹さんも本校の卒業生で本業は作曲家・編曲家・歌い手で、ボーカルレッスンや合唱指導もしているのですが、短大も創立50年を迎え立派な先輩たちがたくさん巣立っていきました。沼尾さんは、今年1月から『とちぎ未来大使』に就任し故郷に貢献していただきますが、これが一つの契機となって県内での活動が広がることは大変嬉しいことです」と、故郷に貢献する役割を担った沼尾さんをさらに支援していく思いを語ってくれた。
「ミュージカル女優・沼尾みゆき」の名が「とちぎ」と共に世界に拡散するのは間もないことである。
母校宇短大のホールで
ホールで須賀英之学長と
コンサート・出演予定
■ミュージカル「タイムトラベラー」
公演期間:2018年6月7日(木)~11日(月)(全6公演)
会場:光が丘 IMAホール
■栃木県民の日記念イベント「文化振興基金助成事業団体コンサート」
日時:2018年6月16(土)12:10〜12:50
会場:栃木県議会議事堂(1階)
※どなたでも無料でご覧いただけます。
■沼尾みゆきコンサートin宇都宮短期大学
日時:8月18日(土)14時開演
会場:宇都宮短期大学須賀友正記念ホール
■「ミュージカルコレクションAct4」
日時:2018年7月1日(日)
出演:沼尾みゆき 中西勝之
会場:ホテルグランドパレス
■ミュージカル「ひめゆり」
公演期間:2018年7月12日(木)~17日(火)(全8公演)
会場:シアター1010