夢のような「時」を過ごす
想像していたより暖かく穏やかな気候であった。昨年12月、私は歴史ある街キシナウ(Chisinau/モルドヴァ共和国の首都)の空港にはじめて降り立った。遅い時間にもかかわらず国家の方が出迎えてくれていた。
幸運にも私は、モルドヴァ共和国インターナショナル・ビエンナーレ「現代アートExpo」で、グランプリを受賞した。受賞式典のため共和国に招待されて、賞金と「国立美術館」トロフィー等を授与され、文化大臣、美術館館長、市長等の挨拶後、私も式典中で受賞の挨拶をする機会を与えられた。続いて、16年前にル-マニアから独立した歴史的記念の式典が会場を移して行われたが、貴重な国家の催事に招待された私は、文化人、アーティスト、政治家、ロシア正教の大司教など、さまざまな人たちとの出会いと交流に、素晴らしい歓待を受けて、夢のような「時」を過ごすことができた。
アーティスト同士の信頼関係で、自由に交流を楽しむ
私のグランプリ受賞作品は『TokyoNow』シリ-ズの中の『Tokyo, hier et aujourdhui』であった。作品は国立美術館に収蔵されるが、美術館の学芸員に「数年前に日本政府から北斎や春信の版画が贈呈されました。あなたが彼らの次の日本人画家です」と言われとても驚いた。私のこの作品はまさに広重や北斎からのインスピレ-ションで描いたものだけに、不思議な縁のようなものを感じた。
2009年11月上旬、友人でモルドヴァ共和国出身(パリ在住)の画家に、国での初めてのヴィエンナーレ・インターナショナルオブモルディヴァ(Biennale International of Moldov)の出展(絵画部門)を促された。締め切りの2週間位前だったので急いで準備にとりかかった。友人とE-mailと電話で何回も連絡しあって、無事期日まで間に合うように友人が手配してくれた。
一週間後、友人からの電話で知らせが届いた。「よく聞いて、あなたが大賞をとったわ。授賞式に必ず出席してね」。急いで飛行機のチケットを取り、パリからハンガリ-のブタペスト経由でキシナウへ。夜中にやっと着いたが、すでに通訳とドライバ-が待っていてくれた。次の日、国立美術館関係者と通訳と一緒に市内観光が企画されていて、歴史あるキシナウの街を観ることができた。モスクワにあるロシア正教の教会より、かわいらしいという感じのモルドヴァ正教会やルーマニア正教会があった。もちろん内部は私の大好きなすばらしいイコンが一杯。歩いている人々の表情や服装もとても明るく、自信に満ちていた。そして、何よりも快く過ごせたのは、Expo関係者がスマ-トでハンサムで、英仏語を話す通訳の女性も若く美しい人たちだったことかもしれない。モルドヴァ共和国の作家をはじめ、他国の作家たちと、異なる言語、宗教、文化の壁を越えて、アーティスト同士の信頼関係で、自由に交流を楽しめることができた。今までの経験では、これはどこの国にいっても同じである。
翌日、花束と重いトロフィーを持ってパリへ。ちなみにモルドヴァはル-マニアとウクライナの間の独立国で、やはり他の中央・東ヨ-ロッパ同様に複雑な歴史を背負っている。
TOMOKO K. OBER(パリ在住/画家・ミレー友好協会パリ本部事務局長)