大空での自由を感じてほしい
空中で踊るダンサーを私はフランスのTVで見たことがあった。サーカスの劇場のような天井の高い箇所から、布だけで自分の身体を巻いたり解いたりしながら踊るアクロバット・モダンダンスダンサー。「他者に自由を感じさせるため」に踊るというダンサー、イザベル・テラシェ。ダンサーは何というアイディアと訓練と、そして才能を必要としたことか!
2013年4月、ソウル郊外ハンサンでのショーでは、綱を使用して踊った。肉体と精神のギリギリの挑戦であった。
「身体的にこのテクニックはかなりハードです。フランスで現在4人の女性が、布を使ったショーをしていますが、男性はいません。たぶん肉体的に、特に足の付け根の構造の違いから?難しいのかもしれません」
パリ11区はアバンギャルドなスペクタクルをやる現代的なホールが集中している。この劇場の300席の会場は満杯で、立ち見の人が並ぶほどである。今回は舞台上でのショーであった。彼女を含め4人の女性ダンサーが出演し、テーマはモッケーズMoqueuses(茶化す、からかう女達)。各自の持ち味を生かしエスプリのきいたモダンダンスで見ごたえがあった。
インターナショナルなパリジェンヌ
一番前の席でショーを見ていた私は、ショーの終了後、楽屋でのインタビューに向かった。さぞかし筋肉隆々とした女性と思っていたが、30cm程の距離で膝を突き合わせてインタビューしていて身体つきをよく見ること、なんとホッソリとした美人ダンサー(身長173cm)であった。しかも4人の娘の母である。夫のフレデリック・レスキュー氏は舞踏の演出家であり、グループ《Cie l’Echappée》の責任者である。イザベルは彼の良きパートナーとしてグループを支えている。
彼女は声楽家のアルジェリア人の母とリモージュ(フランス)生まれの父との間に生まれたパリジェンヌ。エキゾチックな容貌と恵まれたしなやかな肢体。子どもの頃からピアノとダンススクールに通っていた。
パリ国立高等音楽院でクラシックダンスを学び、レンヌオペラ座に出演、ロ―ヨモン僧院でモーツアルトやプッチーニの歌劇で舞台に立ちオペラを歌った。
今は仲間と一緒にモダンダンス、クラシックダンス、ジャスダンス、そしてアクロバットダンスを踊る。
フランス、ベルギー、イギリス、ドイツ、トルコ、イスラエル、ジョルジョア、ロシア、ウクライナ、リトアニア、カザクスタン、韓国等でショーを開催。
「日本はまだ行っていないので機会があったらぜひ踊りたい」、と目を輝かす。
ローレンヌ国立オペラ座では舞踏演出家として、トゥールーズ、ボルドー劇場、スイスのローザンヌオペラ座、オルレアンセンターなどで出演と舞踏指導など、まさにインターナショナルな豊かな経歴である。
イザベラと夫のフレデリック
布を使ったアクロバットダンス
韓国でのアクロバットダンス
困難は「仕事がない」こと以外にない
「いつも次の予定のために1~2ヶ月間は、仲間と一緒に練習期間を取ります。個人的には毎日1~2時間、家で身体を鍛えて柔らかくして練習に臨みます。食事などで注意していること等別にありませんが、肉を良く食べますね。夏のスペクタルの公演が中央フランスのオリヤックであるので、これからがますます忙しくなります」と、多忙なスケジュールを淡々とこなしている。
困難なことは?と問うと「仕事がない時」ときっぱり。全てのアーティストに共通する言葉だ。「仕事がない」以外は何事も「困難なこと」ではないのである。
ショーは声を含めた過激な肉体労働だが「身体の調子の良い悪いにかかわらず、どのような状況でも踊ります。人によりますが私の場合はそうします。特に足腰は、酷使するので何回も悪いときがありましたが、私は踊って治してしまいます」
小さな怪我などは常に付き物だからと笑う。何ものにも屈しない強靭な精神が細い身体からにじみ出ていた。
公演後のインタビューなのでクタクタに疲れているのにもかかわらず、目を輝かせて笑顔で言った。「日本人の舞踏家は素晴らしい。私も大好きなダンサーがいます」と。
仲間のダンサー4人のショー
舞台でのショーで
公演後、トモコとイザベル
TOMOKO K. OBER(パリ在住/画家・ミレー友好協会パリ本部事務局長)