アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「電子版パリ通信」No.61

農業大国フランスの威信をかけて-パリ「国際農業見本市(SIA)2018」Salon International de l’Agriculture にて-

息子が小学校の頃、息子の友人の親がフランス農林省に勤めていた関係で、国際農業サロン(見本市)に私達家族を招待してくれたことがあった。会場に行ってみると、とにかく広い。来場者は一日かけて家畜を見て触り、それらから作られる肉製品・乳製品を試飲試食し購入したりする。まるで子どもたちがディズニーランドなどのテーマパークで1日中楽しんでいるようなサロンである。そして人々は自国の豊かさを認識し、大人も子どもも大いに満足して安心感を得るのであった。

パリは1年間で幾つもの会場で様々な国際見本市が開催されるが、農業大国であるフランスの農業サロンは特別で、初日にはマクロン大統領が来館し、一口づつ味見しながら感想を述べていた。もちろん他の閣僚もみな来館するが、9日間(2018年は2月24日~3月4日)で今年は63万人もの人々が来場したようだ。フランス各地をはじめヨーロッパ中から農業関係者や見学者が押し寄せる。昔はフランスの王候貴族は季節ごとに移動して現地の美味しい物を食べ歩いたそうだ。食に関する意識の高さと食料自給率の高さ(フランスは130パーセント)と関係あるのかもしれない。

会場の様子

会場案内

メディアもこぞって取材

全国に中継される

「いかに宣伝するか」がサロン

メトロ-ポルト・ド・ヴェルサイユのあるフランス第2の広さを誇るこの会場は世界では10位の22万8千㎡(ちなみに日本最大の会場が東京ビッグサイトが8万㎡で世界16位。)すべてを使用している。

まず入って鼻にツンとくるのが家畜たちの匂い、つまり糞尿。この特別な匂いがフランス人の食欲や自然回帰の安心感をそそるのだろうか。寒い日だったので私はビニールのブーツを履いてきたが、家畜小屋に入る感じなので日本でいう「長靴」を履いてきて正解だった。フランスの各地域から各種の4050種の家畜、牛、豚、馬、鶏、ウサギ、七面鳥、鳩、雉、その他の小動物)が勢ぞろい。ソーセージなどの加工食品、チーズ、バター、穀類、そしてワイン、ビール、お菓子なども美味しそうにとブースに盛られていた。この広さとたくさんの人が行き交う中で「いかに宣伝するか」がサロンである。

1900キロもあるの小山のような雄牛をすぐ近くで見てはびっくりしていたが、とにかく面白くインタビューにも事欠かない。

大きな牛にびっくり

様々な家畜が勢ぞろい

貴婦人のような鶏

珍し黒い鶏

トラクターなども展示されている

私たち雌牛よ!(?)

農業高校の生徒たち

この広い中で少年たちのブースに目がいった。それは「オクセール・ラ・ブロス農業高校(*1」」の生徒たちだった。パリより南に354kmのブルゴーニュ地方の村ヴェノワにある学校だった。

「僕はブロスから来ました。今15歳です。それぞれの専攻により異なりますが、3年から5年の間学びます。生徒は男子がほとんどで女生徒は2人だけです。」とリーダーらしき男子生徒がはきはきとインタビューに応じてくれた。

「僕たちは近くのホテルに宿泊していますが、中には自分の家畜と過ごす人もいます」と、家畜と共に過ごす強者もいるという。

しかし、学校の勉強は「家畜のことより、外国語の習得が大変」と話す。英語、スペイン語など数か国語を習得しなければならないらしい。

引率の教師は「学校は毎年このサロンに参加しています。生徒の親は酪農家が多いですが、そうではない生徒もいます。遠方から入学した生徒にためには宿舎がありますよ」と話す。続いて「生徒たちは目的を持って勉強しており、将来の計画をしっかり立てている」と、自慢の生徒たちへの評価は高い。明日の農業国フランスを支える生徒たちへの指導に熱心な教師から、学校の案内状をいただいて生徒たちと別れた。

農業高校の生徒と筆者

初めてさわり匂いを嗅いだトリュフ

他の会場につながる出口近くでシャンパンの宣伝と試飲があり、味見をしたがやはり大変美味しかった。近くにトリュフの出店があり、つい魔法にかかったようにフラフラと誘われてしまった。人の良さそうな夫婦がトリュフの説明をしてくれた。(私に今年1月から正式なフランスのプレスカードが出たのでその効果もあり皆が熱心に説明してくれる)。私は初めてトリュフにさわり、匂いを嗅いだ。何とも言えない不思議な香り、「これが生のトリュフか」と、何故かうれしくなった。

「私たちは7ヘクタールの土地があり、1947年から『ドロームテ・デ・コリンヌ のトリュフ組合』」を作っています。フランスの15パーセントの生産地で、高級度75パーセントを占めています」。真っ黒な塊は黒いダイヤと呼ばれている。12、1、2月が新トリュフの時期だそうだ。最近はトリュフの種付け栽培も少しずつできるそうだ。私は興奮状態になったようで、ついにこのトリュフを買ってしまった。小さくて直径2、5cmくらいで15gを20ユーロー(約2600円)。オムレツに薄切りにして早く食べたい。これぞ農業サロンの醍醐味である。

大きなトリュフ!

アルザス地方の民族衣装を着た娘さんたちと

民族衣装でダンスも披露

バンド演奏もされている

パリの地下鉄に張られたポスター

食肉に反対する団体のデモ

1)Lycée agricole d'Auxerre la Brosse 89290 Venoy
    Drôme des Collines パリより460km南 Valenceの近く

TOMOKO K. OBER(パリ在住/画家)

TOMOKO KAZAMA OBER(トモコ カザマ オベール)

TOMOKO KAZAMA OBER(トモコ カザマ オベール)

1975年に渡仏しパリに在住。76年、Henri・OBER氏と結婚、フランス国籍を取得。以降、フランスを中心にヨーロッパで創作活動を展開する。その間、78年~82年の5年間、夫の仕事の関係でナイジェリアに在住、大自然とアフリカ民族の文化のなかで独自の創作活動を行う。82年以降のパリ在住後もヨーロッパ、アメリカ、日本の各都市で作品を発表。

主な受賞

93年、第14回Salon des Amis de Grez【現代絵画賞】受賞。94年、Les Amis de J.F .Millet au Carrousel du Louvre【フォンテンヌブロー市長賞】受賞。2000年、フランス・ジュンヌビリエ市2000年特別芸術展<現代芸術賞>受賞。日仏ミレー友好協会日本支部展(日本)招待作家として大阪市立美術館・富山市立美術館・名古屋市立美術館における展示会にて<最優秀審査賞>受賞。09年、モルドヴァ共和国ヴィエンナーレ・インターナショナル・オブ・モルドヴァにて<グランプリ(大賞)>受賞、共和国から受賞式典・晩餐会に招待される。作品は国立美術館に収蔵された。15年、NAC(在仏日本人会アーティストクラブ)主催展示会にて<パリ日本文化会館・館長賞>受賞。他。