モルドヴァ共和国はルーマニアとウクライナに挟まれた小国で隣国ルーマニアと言語や文化は同じである。コンスタンチノープルの崩壊(1453年、オスマントルコのメフェメト2世による)に伴い、東ローマ帝国の首都(現イスタンブ―ル)から命がけで逃げ延びた司教や人々がこの地域の岩山で隠れ住んでいたという。
トモコ・K・オベール(在パリ/フランス国籍日本人)は、2009年にモルドヴァ共和国の首都キシナウの国際美術展のビエンナーレで国立美術館賞を受賞、キシナウに招待されてブロンズの盾と賞金を授与され、絵は国立美術館に収蔵された。あれから2年に一度のビエンナーレに出品要請を受けて招待作家として出品していた。
今年2019年4月、トモコに名誉作家として再びキシナウへの招待状が文化大臣から届いた。10年前は初めて訪れるモルドヴァに無我夢中で過ごしたが、今年は余裕を持って各国の作家たちと交流もできて大変有意義な時を過ごすことができたと話す。弊社では国際電話を通じて取材を行った。
美術館
美術館内部
自身の作品の前で
館長の挨拶
作家たちは若く美しく、レベルの高い作品群
特に驚いたのは、美術館内部の展示会場は長い間かけて修復工事があり、今回、白亜の殿堂のような素晴らしい装いになったことです。展示会場は国会議事堂をはじめ公共建築物があり、さまざまな美術館、博物館、音楽堂、そして正教会があり、高級ホテルやレストランなどがあるキシナウの中心地です。
10年前にお世話になった美術館長兼ビエンナーレ展の総責任者・キューレーターであるミスター・チュドール・ズバルネアと美術館のスタッフたちに会いました。少しも変わらない笑顔で、温かく迎えてくれて友情をさらに深めました。彼らもアーティストなので、すぐに打ち解けていろいろと話すことができました。「仲間の場所に帰ってきた」感じで嬉しかったですね。今回、初めて会った他の招待作家や特に今年の受賞作家たちは、若く美しくそしてレベルの高い作品が多く、作家たちとしっかりした意思の疎通ができたのでとても有意義でした。
今回は前のようにぴったりと通訳者や責任者がくっ付いていないので、少しの時間の合間を縫って一人で自由に街を見学しました。おばさんが可愛い2匹の子猫を抱いて街で売っていたのを見て、何十年か前に他の国でも同じ光景を見たのを思い出しました。
余談ですが、到着した次の日、居心地の良い高級ホテルの部屋で自分の時計を見ながら集合時間までのんびりしていたら電話がかかり「皆さん待っているけど、どうしていますか?」と。「えっ、でも集合は9時でしょう、まだ9時前ですよ」と言いました。要するに1時間早い時差があるのを私は忘れていたのです。「すみませんでした」と謝ると「この人たちは遅くなるのは知っていますから、大丈夫」とにっこり。やはりここも大雑把のヨーロッパ!と、少しほっとしました。
会場
他国の作家たちとビエンナーレのポスター前で
美術館長とトモコ
モルドヴァの作家のアトリエにて
ビエンナーレで感じた「芸術、文化に力を入れる農業国」
今年の私の作品は『天使のパン』というタイトルで、縦194cm、横120cmの大きな作品でした。日本の掛け軸のスタイルでキャンバスの上下に棒をつけて、作品は丸めて送ったのです。日本の掛け軸はデリケートで作品の保管や輸送は大変ですが、私の作品はキャンバスにアクリルですから頑丈です。このスタイルの作品はよく作ります。良い場所に展示されていて嬉しかったです。TV局が数局来ていて作品の前での撮影が続きました。
オープニングの日は、教育・文化大臣のマダム・モニカ・バブクさんからの挨拶をはじめ、来賓、作家たち、報道陣らが大勢つめかけていました。25カ国から140点以上の作品が展示されており、芸術と文化に対する力の入れようにこの国の未来への希望を感じました。ヨーロッパ諸国のリーダーは昔から文化面に貢献して初めてその力を認められるという、ギリシャ・ローマいやそれ以前の文化の発祥の地から、その伝統があると思います。(フランス大統領マクロンはノートルダム復興で名を残すでしょう)アーティストとして嬉しい光景を目の当たりにしました
今年の参加作家を見るとラテン系(イタリア・フランス・スペイン)と英語を言語とする人が主でした。フランス語か英語で話をしましたが、他の方はイタリア語がとても上手でしたね。私は主にフランス語で話し、英語とイタリア語を少し話しながら楽しみました。参加者はモルドヴァ人と隣国のルーマニア人がほとんどでしたので、彼らはモルドヴァ語を話していました。講演会の演者のモルドヴァ語の時は、私たち外国人作家はヘッドホーンで英語の同時通訳を聞くことができました。モルドヴァ語は、スラブ系の言語の国に囲まれている中で唯一ラテン系ということです。ルーマニア語もモルドヴァ語も同じですが、元々ルーマニアは「ローマ市民」の意味ですから、イタリア語も上手なわけです。
オープニング後の2日間は、招待作家25人くらいがバスに乗ってキシナウから50キロほど離れたのどかな村を訪ねました。岩山に掘った歴史的な修道院を見学したり、正教会を見学しました。
パリに住んで45年になりますが、農業国モルドヴァならではの美しい自然があふれるこの国の香りを、肌で触れて感動しました。日本の風景と全く違う巨大なテーブル岩岡(山)の下の谷に川が流れているという感じで、岩の中の教会や隠れ場所はびっしり貝ガラがくっ付いていました。それはヨ-ロッパ大陸は海が隆起してできたものなので当然です。パリの大昔の石で作られた建築物にもたまに見られます。だからカルシウムが豊富だと言われています。日本の火山の土砂とは全く違うという事ですね。
また、モルドヴァのワインセラーはワインのコレクションでは世界最大です。世界中の王室のいわゆる御用達になっていて、地下80ー100mもある天然の洞窟を利用したワインセラーは、なんと120kmに及ぶといことです。ワインの地下蔵で試飲し、外の田舎のレストランで伝統的な美味しい料理とワインを充分堪能しました。軒下にたくさんのツバメの巣があり保存されていて、巣の中のツバメの子たちが大きくなっていました。ツバメの食べる虫が沢山いるということです。
4日間の滞在でしたが、キシナウの美術館長をはじめ他のアーティストたちと別れを惜しみつつ再会を希望にパリに帰りました。
(2019年6月10日 取材/TOMOKO K. OBERパリ在住/画家 )
郊外の正教会
正教会内部
岩蔵の教会
岩蔵の教会内部
国内最大のワイナリー
国内最大のワインセラーで説明を聞く
酒蔵でトモコと作家たち
田舎の郷土料理