アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「電子版パリ通信」No.77

原田哲男 彫刻家

ドキュメント映画「Sculpting for Peace(平和のための彫刻)」が上映される

彫刻家原田哲男氏はパリの新潟協会の会長であり、2018年1~3月に「パリに生きる新潟の作家たち」展を新潟市立新津美術館で開催した時、代表としての大任を果たした人である。新潟県出身の私(筆者/フランス国籍パリ在住)も展示会に参加したので、一部分だけでも彼の重任を垣間見ることができた。それはあたかも巨大なアートを創造するような企画を並々ならぬエネルギーをかけてやり遂げるというものであった。

原田氏が日本を発ってから約半世紀が過ぎている。今やパリとフランスの村にある彼のアトリエで造られた作品は世界中を巡り、美術館や公共施設などに設置されている。その原田氏の彫刻家人生を映像にしたドキュメント映画が制作された。

パリのアトリエで原田氏と筆者トモコ

原田氏と監督の平和への共鳴

平和をテーマにする彫刻家、原田哲男のドキュメンタリー映画「Sculpting for Peace(平和のための彫刻)」(90分)は、ジャン=フランソワ・エヴァン(Jean-Francois Even)監督による世界各地での撮影で映画制作が進められていた。約4年ほど前、原田氏のパリの自宅での新潟県出身のアーティストたちの集まりで、映画の制作の話があることを聞いていたのだが、その後「映画制作が始まり忙しくなってきたときにコロナの影響で移動制限や国の違いからくる入出国ができなくなり映画完成が今年まで延びてしまいました」と話していた。

そして2021年に完成、2022年5月3日にパリのサン・ミッシェルのシネマでの試写会に行くことができた。シネマの前にはすでにたくさんの人が開演を待っていて、原田ご夫妻も友人知人たちとあいさつを交わしていた。同時期に彼はパリの画廊で個展を開催していたので、私はオ-プニングに参加して多忙なスケジュ-ルの中からどうにかインタビューを取り付けた。映画は6月7日(火)からサン・レミ・ド・プロヴァンスのシネパレスで上映されている。

映画の試写会会場


しかし、コロナ禍という世界中がそれぞれ前代未聞の困難な状況にあったなかで、ドキュメンタリーを完成、上映までに至るということは苦難の連続であったことは想像できる。

原田氏と監督との出会いを伺うと「ジャン=フランソワ・エヴァンとは私の作品を展示していたある画廊で出会いました。私の作品にとても感動してくれました。それから交流が始まったのです。彼はフランス人の若者で、私は初老の日本人ですが、彼は仏語・英語・韓国語・中国語が堪能でした。奥さんが韓国人ということもありますが。私も日本を出て半世以上異国で生活し仕事をしてきましたが、フランス人の彼の多言語からくる複雑な心情に触れたのです。彼は韓国の38度線(1945年に韓国と北朝鮮に分断された国境線)まで行ってみたそうです。どちらかといえば一言語国家に育った人には分からないかもしれませんが」と、繊細な表現で語った。彼と原田氏は世界的な視野に立った思考と世界の平和へのメッセ-ジを創ることで一致したのだった。

「シナリオは監督との会話とインタビュ-を重ねて、そこから映画の形にしていきました。2カ月間くらいかけて日本でも撮影しました」

映画製作の資金は「パリのアトリエ兼住まいの半分を売って資金を作ろうという私の計画でしたが、これだけではなく新潟で『原田友の会』が発足されて支援者、協賛社の力も借りて実行に移されたのです」と胸を張った。

パリのアトリエで原田氏と妻アニー

個展会場で。ジャン=フランソワ・エヴァン監督と原田氏の妻アニー

目標をもって自分の理想に近づく

パリより100㎞程南下した村フレスネレヴェックに2,000㎡の広大なアトリエも持っており、大きな作品はそのアトリエで制作しているが、ドキュメンタリー映画ではこのアトリエでの撮影が重要な位置を占めていた。

彼の彫刻は主に石の中でも強固な御影石や大理石を使用している。その理由については明解であった。「屋外設置に耐えられるからです。雨、風、寒さ、暑さに何世紀にも渡って耐えることができます」

この強固な巨大な石と格闘しているのを映画で見ることができる。映画は単なるドキュメントではない。格闘中のスロ-モ-ションのモノト-ンの中に白い石の粉が彼の周りを囲み、まるでロンドのようである。詩的で美しい映像に心打たれた。映像とともに流れる音楽は場面を一層引き立たせている。まさに芸術作品であった。

「パリをはじめ他の地域のシネマでも公開されます。もちろん日本でも。いま世界が関心を持っている自然に優しい私たちの地球を舞台にして『大地を縫う』というのが副題です。2021年の東京映画祭にノミネ-トされ、今年ロンドンでも賞をいただきました。また、カナダのモンレアル(英語名モントリオール)やアメリカの映画祭にも応募しています。6月上旬に南仏のサンレミでも上映を予定しています」

世界を駆け巡る原田氏。「今後もよい作品を作るために、目標をもって自分の理想に近づくことです」と力強く語った。

原田氏個展会場


原田哲男 プロフィール

1949年、新潟県新潟市(旧新津市)生まれ。フランスを拠点に活躍している彫刻家。花崗岩や大理石を使用した巨大な彫刻を制作。1973年よりパリとシャルトル近くの村の2カ所にアトリエを設ける。国立ベルサイユ高等建築大学助教授(1993〜2012)として芸術教育にも携わった。

TOMOKO KAZAMA OBER(トモコ カザマ オベール)

TOMOKO KAZAMA OBER(トモコ カザマ オベール)

1975年に渡仏しパリに在住。76年、Henri・OBER氏と結婚、フランス国籍を取得。以降、フランスを中心にヨーロッパで創作活動を展開する。その間、78年~82年の5年間、夫の仕事の関係でナイジェリアに在住、大自然とアフリカ民族の文化のなかで独自の創作活動を行う。82年以降のパリ在住後もヨーロッパ、アメリカ、日本の各都市で作品を発表。

主な受賞

93年、第14回Salon des Amis de Grez【現代絵画賞】受賞。94年、Les Amis de J.F .Millet au Carrousel du Louvre【フォンテンヌブロー市長賞】受賞。2000年、フランス・ジュンヌビリエ市2000年特別芸術展<現代芸術賞>受賞。日仏ミレー友好協会日本支部展(日本)招待作家として大阪市立美術館・富山市立美術館・名古屋市立美術館における展示会にて<最優秀審査賞>受賞。09年、モルドヴァ共和国ヴィエンナーレ・インターナショナル・オブ・モルドヴァにて<グランプリ(大賞)>受賞、共和国から受賞式典・晩餐会に招待される。作品は国立美術館に収蔵された。15年、NAC(在仏日本人会アーティストクラブ)主催展示会にて<パリ日本文化会館・館長賞>受賞。他。