アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「BIOS電子版」No.2

ダンサー・コレオグラファー-妻木 律子-

創り、壊し、移り変わる身体

東京と宇都宮を拠点にダンス活動を展開。公演での振付・出演だけではなくワークショップも精力的に続ける。2004年、「アートを生活の必需品に」をコンセプトに大谷石蔵を利用したアートコミュニティ空間「be off」を設立する。

Q1妻木さんが目指しているダンスとは

古典のように〈既にあるもの〉を目指していくのではなく、自分で創り出していくものです。ですから定型に陥らないよう、物事や身体への些細な関心や疑問から始まって、プロセスを新しい発見があるよう努めます。創っては、壊していく・・その移り変わる身体からに滲み出るようなダンス、時間と場所を旅するようなダンスでしょうか・・・基本的には自分のからだに対して諦めないというか、何かをよりよくしたい、変わり続ける、更新し続けたいという思いが根底にはありますね。

Q2「自分自身のからだと向かい合うことを通じて自分や人のからだを知り、からだに向う楽しさを掴み、心身の開放、拡がりのある心とからだを養う」―ということを提唱していますね。

命というか、生きているもののエネルギーというか、そういう見えないものを身体を通して実感していくことで、自分自身を創造するだけでなく他者との関係を創造できるように思います。大そうなことを言うと、生き物として地球や宇宙のエネルギーを深く吸い込み、吐き出して、すべてを新たなものと受け止め日々生きていく。日常的な意味の世界から自分を引き離し、深呼吸して虚空を飛び回るような自由を一瞬でもつかめたら、生きる力が心底湧き上がるのはないでしょうか。

思うようには動かすことのできない身体にすごく魅力を感じています。自分のからだなのに知らないこと、どうにもならないことばかり。しかしながら、こうした厄介な謎めいた身体だからこそ、諦めずにワクワクしながら面白がっていけるのだと思います。知らないことを恐れずに立ち向かうこと、自分を自分で鍛錬すること、勇気と忍耐を持ち続けることは、何もしないでは生まれません、何かしなくちゃ・・。そういうところから、「ダンスしましょう」と呼びかけています。

Q3be offという大谷石蔵スタジオを開設した目的は

ずっと東京でダンスをしていたのですが、何か、人との距離がかなり遠い感じがして、生活のスタイルを変えたいと思って宇都宮に帰ってきました。観る人との距離が近いところで踊ることを増やそうと、いろいろなことをやってきました。その中で、「人々が集まってきて何か交感する場所が必要だ」と感じ、スタジオを持ちたいと思うようになりました。

ダンス教室としての教師と生徒のためだけのスタジオではなくて、誰でも自由に入ってきてもらえるような、そして、そこで〈何か〉を創造し交換できるような場所をつくりたいという思いがあった時、使われずに眠っていた大谷石蔵に出会ったのです。

be offは、日常から自分をoffにして、何か余分なものを捨てて真っ白になって過ごそうという意味です。

Q4アートによる街おこし活動をされていますが、それはどんな思いから

劇場でダンスの演者として観客と向かい合うという関係だけではなく、もっとダンスが日常のなかで役に立つ部分があるのではないかと思い始めてきました。もちろん子どもたちにダンスを教えるということもあるのですが、お年寄りとか、体に障がいのある人とか、いろんな人がもっとダンスをするようになれば、身が軽くなるというか、気持ちが動くのではないかと思うのです。まず、そういうことが人のなかに起こってくればいいなと思っています。私の場合の街おこしは、人のなかに沸々としたものを起こしたいという思いがあります。私はそれがダンスでできていますから、少しずつみなさんに(ダンスを通して沸々と自分自身を湧き起こすこと)提唱していきたい。

大きいことはできません。ですから、「まず私が変わること、そうすれば隣りの人も変わっていってくれるかもしれない」、その程度のやり方を根気よく続けようと思っています。

身軽に人生を生き抜いていきたいという思いがありますが、そういう部分で、ダンスは老若男女問わず役に立つのではと思っています。

Q5これからやっていきたいこと

ともにからだを動かしたり、ともに話し合ったりするような、身体的プラス知的な交流会みたいなものを、少しずつやりたいなと思っています。

以前、ダンスを止めたいと思ったときもありました。ダンスをすることが自分にとってしか意味がないもので、他の人には意味がないものと感じ悶々としていた時期がありました。そうなると私自身もうまくいかない。人と共有しているという実感を持つようになったとき、ダンスを通して人とやりとりができたと思えたとき、「あっ、ダンスも仕事になる」、私もダンスをやってよいのだという気持ちになれました。

子供のころ自宅にあった大谷石蔵でよく遊びましたが、そこは、私だけの大切な場所でした。beoffは、生まれ変わった大谷石蔵として、私と訪れた方と共有の場として機能していくよう努めたいと思います。

Q6ダンスは、どのように見ればいいのですか

理解しようとしなくていい、どう見てもよいのです。「どう見たらいいのか」と思うと難しくなってしまう。ボーっと見ていて、急に何かを思い出したりでもいいでしょうし。私自身は、子どものときから「こう見てください」とか言われるのがいやでした。「なんで押し付けられのか。私は私の勝手に見たい」というところがあります。「この人は何を表現したいのか」というのは無視して勝手に見ればいい。受け取る自由があることは愉快なことです。私たちのダンスはそういうところがあります。「動きがおもしろいね」とか、「この人なんだか変だけど面白い」とか、子どものような見方が一番いい。意味で見ようとしないで、「分る」のではなく「感じる」、自分のアンテナで受け取ってよいのだと思います。

妻木律子(Tsumaki Ritsuko)

beoffディレクター。ダンスセンターセレニテ主宰。東京と宇都宮に拠点を持ちダンス活動を展開。ダンス公演での振付・出演だけでなく、ダンスクラスやワークショップも精力的に行う。日本人ばなれしたダイナミズムと日本人特有の精神世界を併せ持つダンスは、海外でも評価を得ている。

主な経歴

1989
栃木県文化協会制定 奨励賞
1990
文化庁派遣在外研修員としてマースカニングハムに師事
1993
(社)現代舞踊協会制定 奨励賞
1995
(社)現代舞踊協会制定 ベストダンサー賞
1993
「聖灰水曜日」(社)現代舞踊協会奨励賞作品
1995
「木は叫ぶ、木は歌う」国民文化祭とちぎ’95でのオープニング作品振付
1999
「永遠の1/2」(デュエット版)TOKYO SCEN-DANCE99参加作品振付(東京・ハノーバー・クレッフェルト・デュッセルドルフ・宇都宮にて上演)
2004
文化庁派遣在外研修員としてロンドンThe placeにてコミュニティダンス研修

関連リンク

Tsumaki Ritsuko DanceWorld

be off