アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「BIOS電子版」No.4

シャンソン歌手-浜﨑 久美子-

美しく軽やかな身のこなしでステージ(2011年5月17日・東京)に登場した。だが、歌いはじめたその声は、なんと深く響き、心に訴えてくるのか。

浜﨑久美子、シャンソン歌手。シャルル・アズナヴールに認められ、彼がバックアップする唯一の日本人シャンソン歌手。この日最後に歌った曲は、若く美しい彼女のイメージから離れたアズナヴールの『不滅のアーティスト』であった。

「アズナヴールは80歳を越えた年齢ですが、今も尚、政府に対する批判をこめた社会性のある歌を歌い続けています。私は彼を尊敬しています」

アーティストは絶えず歴史の先を見据えてメッセージを表現する存在でもある。音楽で、絵画で、映像で。彼女はシャンソンの真髄がここにあると心に留めているようだ。歌手として、人として、何よりもこどもを守り育てる母親として。

『さくらんぼの実る頃』に惹かれて

浜﨑は名古屋音楽大学作曲科出身である。「こどもの頃から人前に出るのが苦手でした。作曲なら人前に出ないで、自分を表現できる」と選んだ学科であった。しかし、音大の同級生に連れられて行った初めてのシャンソニエ「カフェ・コンセール・エルム」(名古屋市)で、衝撃的な出会いがあった。

「シャンソンを聴いてその美しい歌詞に惹かれました。『さくらんぼの実る頃』でした。こんなにも美しい歌を私も歌ってみたいと思いました」

人前に出て表現しなければならない「歌うこと」だが、「歌いたい」がために勇気を出して日仏シャンソン協会の門を叩いた。この出来事が彼女の音楽人生を大きく変えることになった。

それは日仏シャンソン協会 日本支局長、加藤修滋氏との出会いである。彼女が師事することになった加藤氏は、フランス政府より「芸術文化勲章シュヴァリエ」を叙勲されたピアニストであり、日仏シャンソン協会日本支局長としてシャンソンを通して、日仏の架け橋となって活躍していた。彼女のシャンソン歌手への第一歩がここから始まった。

目標は「菅原洋一」

1996年「カフェ・コンセール・エルム」からデビュー。その歌声と天性のスター性で頭角を現す。97年にはパリの名門シャンソニエ「ル・コネッターブル」に最年少で出演。99年には日本アマチュア・シャンソン・コンクール全国大会でグランプリを獲得。02年初アルバム収録曲の『ブラボー!ムッシュ・ルモンド』が、05年の「愛知万博」のグローバル・イメージソングとなりEXPOドーム等で十数回の出演を果たす。

日仏シャンソン協会の門を叩いた時から、確実に積み上げて実力あるシャンソン歌手へと階段を登っていった。

「日本の歌手で目標にしている人は?」と尋ねると、その名をあげたのが「菅原洋一」。なぜ?の問いに、一言、「素晴らしい声、そして、押し付けがましくない歌です」と絶賛。「度々共演させて頂き、親しくお話させていただきましたが、謙虚な人柄に触れて感動しました」

ステージでは内面が露わにされる。人格的に磨かれていなければ感動を与えることはできないと考えている。それが彼女の歌うことに対するひたむきさであり、聴くものにそれが伝わって感動をよぶ。

『愛し児へ』

浜﨑が今回のステージで歌ったもうひとつの歌『愛し児へ』(作詞・作曲/ジョルジュ・シャトラン・訳詞/加藤修滋)には特別な思いがあった。

浜﨑は約2年半前に男児を出産。1年半の休業後、復帰するにあたりジョルジュ・シャトランが浜﨑と愛児のために贈った歌、それが『愛し児へ』である。

「こどもを産み育てることで、今まで目に留まらなかったものが見えてきました」

インタビュー中の彼女の顔がぱっと変わり、歌手の顔から柔らかい母の顔にほころんでいった。「もう2歳半になりました。保育園に通っていますが、ステージの控え室でこどもが眠っているときもあります。今日は私の母に見てもらっています」

CDにはかわいいこどもの笑い声が収録され、DVDには天使のような笑顔が映し出されていた。歌詞はすべての母がわが子を想う愛に満ちている。

私たちには 武器も力もない

けれども 大きな愛と、祈りと、願いがある

歌を歌い 夢を描ける

(『愛し児へ』より抜粋)

「シャンソンを日本の多くの人たちに知ってもらいたい、もっともっと広めたいと思っています」

シャンソン歌手「浜﨑久美子」は、フランスと日本の間で夢を描いて歌い続けている。母としてこどもたちの未来の平和を祈りつつ。

浜﨑久美子

美輪明宏、菅原洋一が出演を重ねた名古屋の名門ライブハウス「カフェ・コンセール・エルム」でデビュー。シャルル・アズナヴールらビッグアーティストがその歌声を絶賛。フランス国営放送で楽曲をオンエアーされフランス中の話題となった。シャンソンの三大要素『祈り、願い、叫び、』に満ちた優しさあふれる声の持ち主。

2010年10月にフリーボードより新曲『愛し児へ / Chante』をリリース。中部地方を中心に多数のコンサート、ライブに出演を重ね、着実にシャンソンの魅力を伝えている。