アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「BIOS電子版」No.43

料理研究家-臼居 芳美-日本の家庭料理を世界に広める

料理の仕事がしたい

「私が中学生の頃ですが母の友人が当時では珍しかったガスオーブンを持っていて、その方の家に遊びに行くと、焼きたてのケーキを出してくれました。それが私にとっては大変な憧れで、『私のお年玉も出すからガスオーブン欲しい、買って!』と母にせがんで買ってもらいました。早速、その方のところでケーキ作りを習いました」

料理研究家の臼居芳美さんは料理に目覚めたきっかけをこう話す。魔法のようなガスオーブンで目を輝かせながらケーキを焼いていたに違いない。

「高校生のときに手作りのクッキーを持っていくのが学校で流行っていましたが、その頃オーブンがある家が珍しかったので自慢でしたね。だんだんと普及して、みんなでクッキーを持ち寄ってよく食べましたよ」

美術大学に進学、染織を専攻した。テレビ局に憧れていたこともあり、NHKに叔父が勤務していたのでアルバイトを頼んだ。「何でもいいからテレビ局のバイトがしたいってお願いして『中国語講座』のアシスタントをしましたが、違う、やっぱり料理の仕事がしたいと言ったら、『きょうの料理』のアシスタントの空きがあるからそこでどうかと。料理に関する仕事をした最初です」

NHKでアルバイトをしながら大学を卒業しNHKの契約社員になった。「テレビ局の料理番組は、出演する先生が、全てできる料理の助手を連れて来ています。私はスタジオの助手なので料理そのものよりもカメラワークにあわせるのが仕事でした。あの頃、大変著名な先生方が出演していました。帝国ホテルの村上信夫シェフ、ホテルオークラの小野正吉シェフ、辻留の辻嘉一さん、中華料理の陳建民さんなど、そのような料理界のトップの先生方と接するのが大変刺激になりました」

やがて結婚して栃木県宇都宮市に在住。新幹線は途中の大宮までしか通っていなかったので、在来線で乗り換えて2時間かけて東京の渋谷まで通勤していたが、出産を機に辞職した。

「でも、どうしても料理の仕事がしたくて、自宅に近所のママ友を集めて楽しみながらパーティー形式で料理教室をはじめました」

臼居芳美さん

「アイデアと工夫」の料理研究家

自宅での料理教室は約30年間継続している。外部からの依頼の料理教室も受けて、美大とNHKで培った感性で腕はさらに磨かれた。栃木県農政課をはじめとする宇都宮市近隣の町の「道の駅」などで、地元の素材を使った料理の開発と料理教室を依頼されている。また県の仕事は地産地消ということで生産者を集めて料理教室を開催して広めていく。

「各企業や農家さんから、例えば、『那須町のチーズを使ったレシピを作って欲しい』などを受けています。料理研究家とシェフの違いは、どのような要望にも広く対応できる、平均して浅く広くこなせることですね。便利なのでしょうか、声をかけてくださいます」

地域を問わず県外からも生徒が集まる「道の駅しもつけ」の教室では、地元のモノを使ったメニューを月1回のペースで一年間のメニューを出しているという。

「企業から依頼されている料理開発ですと、ホームページに出したいという依頼で、例えば、地元の肉店の和豚もちぶたを使ったメニューを部位ごとにレシピを作ったり、日光ろばた漬けを使ったメニュー開発だったり。技術もそうですが、アイデアとか工夫がとても大事な仕事かなと思います。例えば、おつけものはそのまま食べるのが一番美味しいと思うのですが、それを豚まんに入れてみたらどうか、パスタにシソの実の醤油漬けを散らしてみたらどうか、奇想天外な発想で入っていくと意外と美味しかったり、おもしろかったりします」

まずはストレートに食べて、後はお料理に使ってみて、それをまずは自分で試してみるという。 

「その犠牲者がうちの夫なんですよ。自分で食べてみてから色々な人に感想を聞きます。醤油を入れたプリンを作ったり味噌を入れたプリンを作って食べさせると『何じゃこれっ』って。常に研究しながら仕上げていきます」

現在、臼居さんの自宅の教室が12クラス。外部のレギュラー、スクールなどの料理教室を併せると多忙を極める。

「外部のお教室は農産物も生産者から直接買います。ここでも『イベント的なものを何かやってるぞ』と、人が集まって動いている雰囲気を出したいというご依頼でお話をいただきます。ですから、あえてお店の営業中に端のほうで『教室中』とは書いて、ほとんどデモンストレーションのようにやっています。その中で10人前後の参加者が集まってくださりワイワイ楽しみながらやっています」

自宅の料理教室で

日本の家庭料理を海外に広める役目

「栃木県の食を海外に持って行って評価を得たいですね。職人のつくる和食ではなくて、家庭に入り込んで和食を伝えたい。気楽にできる日本の家庭料理を海外で広めることが夢です」と話す。

「スロバキアに行く機会があるのですが、あちらではそういう感じでやってきます。2011年に初めて向こうの料理学校で日本の家庭料理を教えて、それから毎年1~2回行っています。少しずつ夢が叶っている気がします。そうすると『栃木県』というよりは『日本』の食なので、間違ったことを伝えてはいけないと、私も『勉強しつつ正しい方法で教えつつ新しいのも食べていることも伝えつつ』です」

新鮮な食材はすべてスロバキア産のモノを使い、現地でも日本料理を楽しんで食べてもらえるようにしているという。「2年前は在スロバキア日本大使館主催の日本文化紹介という大きな事業があり、料理部門で300人くらいに松花堂弁当を作りました。文化交流の一環というプレッシャーもありましたが、やりがいもあり楽しかったですね。日本ではあまり知られていないスロバキア料理は、私の料理教室から是非広めたいです」

またパリでは『フロマジュリー・ヒサダ』(パリ1区)からの依頼で毎年おせち料理を作って販売している。パリ在住の日本人やフランス人に大変好評で今年も継続する。

「パリのおせちは、日本そのもののおせち、昔のおばあちゃんのおせちを作りたかったので、卵と鶏肉以外、昆布や黒豆なども全部日本から持って行きます。予約制なので数が決まっていますが、キッチンのあるアパートを借りてそこにこもりっきりで作り、それを『フロマジュリー・ヒサダ』の2階のカフェで朝の8時くらいから重箱を広げて詰めます。31日の午後1時から引渡し。去年で二回目ですがおかげさまで大好評です」

最初の年は30件、去年は36件の注文を受けたが、それ以上の数を作ることは難しいという。約7割はパリ在住の日本人が、後は地元のフランス人が購入する。

「12月25日にもらえないかとか、バカンスから帰ってくるから1月4日にもらえないかとか問い合わせがありますね。フランスの人はおせちをパーティー料理感覚で楽しんでいるようです」

分野を越えた料理への挑戦や開発を続ける臼居さんだが、今年は上海の豆腐料理コンテストに出場して金賞を受賞している。幅広く深く料理の美味しさと楽しさを追及している臼居さんならではの受賞である。

「日々挑戦です。料理教室では和洋中スイーツと何でもやらなければならないのでさまざま研究はしています。集まって料理を作って食べて楽しんで、という雰囲気が好きという方もたくさんいらっしゃいます。その中で何かしら学んでいただけたら嬉しい。料理教室とはそのように食を楽しむ場でもあるからです」

スロバキアの日本料理教室で

在スロバキア日本大使館主催の日本文化紹介で
松花堂弁当を作る

日本の'Bento'も紹介された

スロバキアの調理学校で

来日された、イヴァン・ガシュパロヴィチ大統領の歓迎晩餐会

スロバキア料理

パリで好評だったおせち料理

臼居芳美(うすいよしみ)

臼居 芳美(うすい よしみ)

栃木県生まれ。女子美術大学工芸専攻卒業、NHK「きょうの料理」のアシスタントを務める。現在、宇都宮で料理教室を主宰。栃木県農産物のレシピ提案や六次産業化の製品開発に携わる。テレビ・ラジオに多数出演。「良い食材を伝える会」会員として、日本国内、海外で和食料理を提案。

ブログ:https://sanpomi.exblog.jp/

著書

「料理は幸福。美味しい料理と温かな時間と、そしてそこに集まる人の笑顔とおしゃべりと、こんな風景が好きだから、今日もまた幸せのテーブルを用意する。」

書籍名:『HAPPINESS AT THE TABLE 今日も幸せのテーブルで』

出版社:ツインズ

定 価:本体926円+税