昔、パリのオペラ座で見たプッチーニの『蝶々夫人』やテレビで見た『トスカ』、またヴェルディの『椿姫』『リゴレット』など有名なオペラは、嫉妬、裏切り、謀略、別離、そして死と、悲惨な結末が多い。
先日、秋田芸術劇場「ミルハス」で見た3時間超のビゼー作『カルメン』も例外ではない。男たらし、悪女といっていいか難しいところだが、恋焦がれるドン・ホセへ「私はジプシー、自由に生き、自由に死ぬの。誰も私を縛ることはできない」と熱唱するカルメンに共感を覚える殿方は、苦労はしても女性は悪女がいいということであろうか。
その点、ブロードウエイで見たユルブリンナー演じる『王様と私』などミュージカルはハピーエンドが多い。メッセージ性の強い『サウンドオブミュージック』も締めは大団円である。チャイコフスキーのバレエ『白鳥の湖』も悲劇を装いながらオペラと違い涙腺が緩む人は多分いない。「21世紀バレエ団」を率いたモーリス・ベジャールは2007年に80歳で死んだ。彼が振り付けたラベルの『ボレロ』をジョルジュ・ドンが踊るクロード・ルルーシュ監督の映画『愛と哀しみのボレロ』に衝撃を受け私はその振りを真似た。1992年に亡くなった彼を私は「ドン様」と呼んでいたくらいである。
昨年のミルハスは著名演奏家で目白押しだった。盲目のピアニスト辻井伸行、不死身のフジコヘミング、スロバキアフィル、NDRエルプフィルと反田恭平のピアノ等々。年末の小山実稚恵のピアノと秋田で人気のロックバンド「鴉」は同日の入場券を私はダブって買ってしまった。午後6時半開演の小山さんを大ホールで聴き、7時半からの幕間に妻娘がいる中ホールへ走って鴉を20分、大ホールへ戻り小山さんを終了まで聴き、8時半から9時まで鴉と、クラシックピアノと強烈ロックを交互に楽しみ、贅沢な時間を過ごしたと自画自賛したら娘は「発達障害にはかなわない」という。
落ち着きなく着想即実行、整理整頓が苦手な私の発達障害ADHD傾向に家族は閉口している。私たちサンバチームが15年前から続けているパレードとステージを昨夏、娘の舅姑が遠方から見に来た。「テニスにスキーに山にジム…医師会報、マリマリの輝きの処方箋、祭りに自治会長でしょ。お歳を考えると…」と驚く舅姑に娘はその時も「ただのビョーキです」と説明していた。
だが私はブロニーウエアの『死ぬ瞬間の5つの後悔』の2つ「仕事をしすぎた」と「友との時間をもっと大切にしたかった」に忸怩たる思いである。昨年は同年の友人や従弟を5人失った。そろそろ老いの流れに身を任せ…と行きたいが落ち着かない。発達障害傾向の人の老後は退屈と無縁というが、自己コントロールは今なお難しく、動けるうちは贅沢で傍迷惑な時間を生きるしかない。〈2024/1/30〉
雪の横手球場(2月15、16日にかまくらが始まる)
カルメン(関西二期会公演・手前のオケピッチで声援を送る楽団員たち)
小山実稚恵と鴉のポスター
鴉
城崎温泉に集まった学生寮仲間(23年11月)