高血圧の女性が眼帯をしてきた。雪道で滑って額を電柱に激突、皮下出血で右目の周りはパンダ状態である。私も昨年の今ごろ、飲屋の帰りに凍結路で転倒し後頭部をしたたか打った。これで我が人生も一巻の終わりと仰向けのまま夜空を眺めていてふと「凍った道では靴の上から靴下を履いた方が転びにくい」ことを証明したイグノーベル賞受賞研究を思い出した。だが靴の上に靴下を履いてまで飲みに出かける勇気はない。
真偽の程はともかく、ガンに効くとして有名な玉川温泉で先ごろ悲惨な雪崩事故があったが、今冬の秋田は美人も酒飲みもみな大雪と格闘中だ。ニュースにならない程度の転倒、屋根から転落、除雪機械の事故者は例年より多いと近所の整形外科医もいう。雪かきによる過労、腰痛肩コリはうちにも来院し、患者共々私も湿布を愛用している。
クリニックを始めた12年前の最初の冬、しまった、と思ったのも、この雪だった。病院勤務時代は職員や業者が除排雪をしてくれた。しかし職員が女性2名の零細医院では私も知らんふりできない。追い打ちをかけるように雨樋はツララで折れ曲がり、隣家の屋根から雪崩が襲ってくる。秋田県では、風呂場の極端な寒暖差が原因の突然死が年間220名、雪に伴う事故死との合計は自死総数に迫る勢いである。
こんな秋田にわざわざ常夏の台湾から観光客がいらっしゃる。「冬はスキーと温泉。雪が溶けたら秋田もつまらん」という一徹者の住民もいる。インフルエンザで受診した6歳の子は、「冬もスキーも大好き。パパとかまくら作ったよ。学校に入ったらお友だちともっと遊べる!」そう、遊べばいいのだ。大変だ、大変だと、雪と戦うだけでは芸がない。
そこで先週、近くのスキー場に出かけた。が、1時間で指がかじかみスキーどころではない。寒暖計は零下7度。スキー券2200円は温泉無料券付き。迷わず温泉にドボンで半日。台湾の皆さんもこれに味をしめたのかもしれない。
雪まみれのハートインクリニック
閑散たるスキー場にて娘と