ある旅行業界誌によると、昨年1年間に海外渡航した約2万人に行った調査では、現金持参額は平均20万円で、最も多いトラブルは現金の紛失・盗難、平均被害額は1人約3万5千円という。
30年ほど前、私もパリのモンパルナス駅のドゥシェ(貸シャワー)でやられた。久々に垢を流し、駅前のベンチで風に吹かれていて財布の置き忘れに気付いた。慌てて戻ったが手遅れ。中にはパスポートと帰りの航空チケットが入っていた。青い顔でオベール家を訪ね、画家のトモコに話した途端、彼女は激怒。「滞在1カ月の慣れたころが危ないって、あれほど言ってたのに!」
その8年後、今度はパリのメトロで。大して混んでもいないのに2人の男が身を寄せてくる。気色悪い奴らめと思っていたら電車が止まり、2人は降りた。ドアが閉まる直前、彼らはニヤリ。よもやと尻ポケットに手をやったら、財布がない! パスポート類は別にしていたので被害は現金3万円弱。が、オベール家に戻るとまたもやトモコのこめかみに青筋が立った。「あなたね、まるで私がやられたような気がするから、頭に来るの!」
バルセロナのサクラダファミリア前に4人の日本人がいた。聞けば全員一人旅。これも何かの縁、一緒に晩飯をということで裏通りの小さな店へ。大いに飲んで食べ、パエリアは米のうまい日本が上かなどと上機嫌で店を出たその刹那、女性の1人が肩から下げたバックをひったくられた。追いかけると犯人は振り返り、抜き身のナイフを闇にかざす。追跡は中止、全員で最寄りの警察署へ。
スペイン語が堪能な1人によると、犯人の目的は現金で、パスポートなどは明朝届くだろうと警官は言っている…。だが女性はべそをかいているし、我々は団体旅行ではない。金を出し合って彼女に渡し、解散した。帰国後、彼女から手紙が届き、翌朝、現金だけ抜き取られたバッグを警察署で受け取った、スペイン人は憎めないですねと結んでいた。また怒られそうで、この話はトモコにはしていない。
トモコ(左)と宇都宮で
八郎潟サンバ(左端クイーカが筆者)
秋田の夏・早朝散歩