今年もまた潟上市の自宅から車で10分の八郎潟町「一日市(ひといち)盆踊り」に3日間出かけた。前夜祭では浅草カーニバルのダンサーたちと商店街パレードで1時間アゴゴ、夜はステージでクイーカを演奏した。バテリアも6年目。さっぱり上達しないのはご愛敬だが、週1回2ヶ月の稽古を経た晴れの舞台である。私たちは気をよくして翌日から本番に臨んだ。
2日目の夜。商工会の出店で焼き鳥とビールをやっていたら、「飛行機の中で急病人が出て、お医者さんはいませんかと放送があったら、先生はどうする?」という者があった。こういう時まともに答えるのは得策ではない。「君なら?」と逆質問したら敵もさる者、「俺が医者なら名乗り出る」ときた。その手は桑名の焼き蛤。「医者だって専門がある。腹が痛いと言っているとか、意識がないとか、症状も言ってくれないと、ちょっとね。最近は訴訟問題もあるし」
すっかり酔いの回った私たちは午後9時ころ踊りの輪に入った。10時に終わり、さあ飲み直そうと語り合っていたその時、「お医者さんはいませんか!」という叫び声が上がった。反射的に声と反対側へわが身が向いたその刹那、何者かが私の右腕をつかまえ、ぐいぐい引っ張っていく。老人が車道に倒れていた。脈をとると触れない。呼吸も弱く、呼び掛けても反応がない。老人を抱き起そうとする野次馬がいた。制止し、反対に回って脚を持ち上げるよう指示した。下肢の血液を上半身に集めるためである。やがて脈が触れ始め、老人は唸り声を発した。結局、救急車が着くまで15分間その場で待機した。
気が付くと飲み仲間は誰もいない。出店に戻ると「先生、お疲れ様」「飛行機の話をしていてよかったね」とみな呑気なものである。こうして明日は仕事なのにまた飲んでしまう。
よせばいいのに翌日も仕事が終わってから出かけた。また連中が出店で飲んでいて、「きのうのご活躍、町で評判だよ」などとおだてる。そこへ変人の歯科医が現れた。何やら肩からぶら下げている。「夕べは先生1人で大変だったから、今日はこれを持ってきた」とテーブルに乗せたのは、何と、AED(除細動器)。オレは精神科だ!
アゴゴ
クイーカ
バテリアとダンサー
一日市盆踊り