2月下旬、秋田市アトリオン音楽ホールで山田和樹指揮の仙台フィル、藤原歌劇団、地元合唱団による演奏会形式オペラ「カルメン」が上演された。「組曲カルメン」はポピュラーで、私も高校時代に吹奏楽部で「闘牛の歌」を演奏した記憶がある。
舞台は1820年代のスペイン。ジプシー女のカルメンはセビリアの煙草工場で女工をしている。ジプシーは差別用語だとして最近は「ロマ」というそうだが、ともかく流浪の民である。煙草工場で働いている今は定住しているのか。いずれ物語では山賊の一味に合流するので矛盾はない。
40年ほど前、パリでジプシーの子供たちの一団をよく見かけた。画家のトモコに、「あの子たちはスリだから気をつけなさい」といわれていたが、手口はこうだ。先頭の子が両腕に新聞紙を拡げ何か語りながらカモに近づく。耳を傾けているうちに新聞の下で他の子供たちが素早く手先を操り、気がつくとカモのポケットから財布が消えている…。
私もこの子らに取り囲まれたことがあったが、その手は桑名の焼き蛤。彼らとは至る所で遭遇した。テキはカモ探し、私の方は暇人の徘徊である。いつも集団の先頭を歩く女の子は翠なす黒髪に大きな目、彫の深い顔立ちで、誠にカルメンの末裔ともいうべき別嬪さん。そのうち目が合うとニッコリ笑みを返してくれるようになった。自分たちとおなじ流浪の民と思ったのかもしれない。
終幕でドン・ホセに復縁を執拗に迫られるカルメンは、「私は自由の生まれ。束縛はいや」と断固拒絶する。もし彼女が男をダメにする本物の悪女なら、純情なホセを適当にあしらっていたかもしれない。そうしなかったのは、ホセを慕い、故郷から母親の言伝を持ってきた若い娘ミカエラに彼を譲ろうとする悪女の深情けだったか。
どうしても俺を捨てるならと彼女を刃にかけたホセ(テノール村上敏明)は「ジュテーム・カルメン!」と悲痛な裏声まじりで絶唱する。ジプシーの真逆と言っていい秋田土着の少年少女合唱団も凄かった。この子らもカルメンのように秋田を去り、年寄りは「ジュテーム・若人!」と謳うばかりか。
PS 2月27、28日、秋田県田沢湖「たざわスキー場」でW杯フリースタイル(モーグル)大会が行われた。この「鳥人」たちもツアーと称してジプシーまがいに世界中を放浪(転戦)しているのだが、とにかく、見ていて危ないというか、大胆な演技にはあいた口がふさがらなかった。
カルメンポスター
カルメン主演者
2016FISフリースタイルW杯たざわ大会
モーグルコース
解説する上村愛子(撮影許可済み)
跳ぶ(デュアル競技決勝)