金は賄賂になるが、うどんは賄賂にならない―。こんなことを言いながら本業の傍らせっせとうどんを作っては各方面に贈る書店の社長がいる。なぜうどんが賄賂にならないのかと尋ねると、税務署が目をつけるはずがない、食ってしまえば証拠が残らない、差し上げるのも一人4食分で負担も少ない、おまけに美味しいから皆様が喜ぶと笑う。なるほどと頷きながら私も時々お相伴にあずかる。
人間、うまいものを食わせて飲ませておけば大概、文句は出ない、運が良ければ話もスムーズに進むとおっしゃる恩師がいる。確かに何事も交渉の席で侃々諤々やるより会食の方が話は速い。
私が所属する当地の異業種交流会では、いつのころからか定例会は公民館で30分、懇親会は行きつけの焼肉屋で3時間といった塩梅で、重要案件のほとんどは焼肉屋で決まる。一杯機嫌なので迷案珍案が飛び交い、毎度1人ほぼ2千円通しだ。
冒頭の社長、実は先代が遺した膨大な負債で苦労した。借金を法的に棒引きするのは、あくどい銀行はさておき、個人債権者に対しては申し訳ないからと踏ん張り、金を返すまでの間、せめてうどんをと始めたのだった。食い物の恨みは怖いというが、金の負い目を食い物で和らげるやり方は悪くない。
彼を励ますために私たちは時々ガバナンス会議を開く。うどんをすすりながら一杯やっていると議案もとんとん拍子で、こんなシャンシャン会議で経営は本当に大丈夫かと心配なさる件の恩師も、うどんすきには頬を緩ませる。うどん、おそるべし。
社長のうどん
総会
みんなで